第2話 森の賢者はナマケていません

わたしは、森の賢者である。


ただ人の子らからは、はなはだ度し難いことに『ナマケモノ』と揶揄やゆされている。


いやはやまったくもって、わたしには相応しくない名と言えよう。


名は体を表すものと聞くが、どこをどう見ればわたしがそのようなうつけ者と見えるのか。


__だが、まあ許そう。


そのような些事に思いわずらわさられるほど、わたしは暇ではないのだから。


何故ならば、ついに見つけたのだ……我が空腹を満たす魅惑の果実を。


いま居る場所より体を数歩動かした先にその果実が生っていた。


__だがしかし問題があった。


いや問題という言葉では生温いほどに、重大かつ大いなる窮地に立たされた苦難と言えよう。


なんと……なんと……


__立ち上がらねばならぬのだ!


何ということだ……今までは手を伸ばせば当然の如く得ていた成果を今度は苦境をもって事を成さねばならぬと云う。


おお神よ、何故わたしにこのような試練を与えたもうのか。


ああ、わたしはいったいどうすれば良いというのか……。


しかしその時、天から射す一筋の光が我が瞼を焼いた。


その眩しさに目を顰め光が届かない先をと目線を逸らすと、ふと小さな折れた枝が目に入った。


そこで閃きの如く天啓が降りる。


__そうだ、この枝を使えばあの遠きくだんの果実を手に入れられるのでは……と。


まさしく我が明晰なる大いなる見識と冴えわたる賢者としての極地ともいえる思慮深さから成る唯一の解と言えよう。


ふふっ。この世すべてを見渡せど小さき枝とはいえ、道具を用いり事を成すケモノなどどこに居ようか。


そうしてわたしは勇む気持ちを抑え、孤高であれと志を胸に優美たる動きをもって枝を手にし、その試練へと立ち向かうのであった……。




__ふぬぅ。ふぐぬぅ。ふぬぐぬぬぅうううううう……ッ。


「あ!見てみて!!あの子、一生懸命に枝を使って果実を取ろうとしているよ!」


「あらあら。ふふっ本当だわ。可愛いわね」


「だよねー。でも枝なんか使わずに立ち上がって取れば早いのにね。あははっ、やっぱり"ナマケモノ"さんだー」




何やら下方で騒がしき声が聞こえるようだ。


だがそのようなことに構ってはいられない。


いまこの瞬間、わたしは生きているのだからッ!!


……だが今日はこの辺にして、明日にしようか。


ああ腹が減ったな。

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