天才理系魔導師、大学を辞めて実家の農家を継ぐ。
ピポット
第1話 緊急家族メール
ガタンガタン
古臭い旧型の列車に揺られながら再度手紙の内容を確認する。
『愛しのレイへ
お久しぶりです。覚えてますか?母ですよwwレイったらちっとも連絡してくれないのでお母さんは死ぬほど寂しいです(泣)あ、もしかして彼女が出来たとか?そんなことがもしあったらママは怒りで親父を殺してしまうかもしれません。そんなことレイに限ってはないと思うのでお母様は安心しています。でも心配なこともあるので早めに帰ってきてくださいね。私はレイが大好きですよ。
妻のマザーより
P.S.お父さんが腰をやってしまい動けなくなったので帰ってきて家を継いでくださいだそうです(笑)』
以上が我が母から送られてきた手紙の全容である。
正直言って意味わからん。
まず人称は統一しろよ!しかもなんだ最後の妻のマザーって!あんたは父さんの妻だろうが!
因みに母さんの名前はユリ。
それから書いてる内容おかしいだろう、俺に対する愛の大きさしか伝わってこねぇ。いや、嬉しいような怖いようなぁ!?よく分からないけど、それに絶対P.S.と内容逆だろ!父さんが腰やった方が本文だろうが!
まだツッコミ足りないがこれ以上は精神が持たん、スルーしよう。
と、俺が手紙と格闘をしている間に目的の駅へと到着した。
ホームには屋根がなく、改札にも誰もいない、周りは木々に囲まれて野生の動物達が顔を出している。ここはいわゆる無人の秘境駅だった。
「母さんが車出してくれるって言ってたけどまだ来てないのか……」
バスもないことはないのだが、2時間に一本しか来ないので今の時刻では望み薄だ。
俺は改札前のボロボロのベンチに腰をかけた。
「なんだか懐かしいな」
隣町まで買い物に行く時は決まってこの駅を利用した。
家族3人手を繋いでこのベンチに座って列車を待っていた様を昨日のことのように思い出した。
ブロロロロ!!
遠くからガス式エンジンの軽トラックがこちらに向かってくるのが見えた。
あれが実家の愛用車レイ号だ。
俺が生まれたのと同じタイミングで買ったらしく、そのせいもあって同じ名前をつけられてしまった。しかも車に……。
駅前の小道に止まると運転席の窓が開く。
「レイちゃん!おかえり!」
上半身を乗り出し、こちらに向かって手を振るのが俺の母、ユリだ。
毎年行われてるリンガードン学園名物ミスリンガードンに出ても優勝してしまうのではないかと思うほどの美人でこれで40代とはまるで思えない美貌とスタイルだった。
「もう〜!レイちゃんったら全然連絡寄越さないでぇ〜!今まで何してたの!?」
母さんはアクセル全開で30キロ制限の公道を80キロオーバーで走り抜ける。
「ちょっ!!何してんの!!?事故るって!無理だって!」
「あ!話そらそうとしたわね!いけませんよ!人の話をしっかり聞いて聞かれた質問にはしっかりと答えないと!もう、教えたでしょ?」
母さんは全く気にしないそぶりで、寧ろ俺のことを叱ってきた。
「いやいやいや!この状況下でそんな質問に答えられないから!スピード落としてよ!」
「もう〜しょうがないわねぇ〜」
母さんは50キロ近くまでスピードを落とす。
オーバーはオーバーだが、さっきよりはだいぶマシだ。
「で?向こうで何してなのよ?」
母さんはすぐさま話を戻そうとする。
何って、ここを出る時も言ったし、っていうか毎年母の日、年末年始、母さんの誕生日は帰ってるはずなんだけどなぁ
「いや、普通に研究だよ。でも昨日辞めてきたけどね」
「あら!大変ねぇ、ってことはようやくーー」
「いや、母さんとは結婚できないしそんな気もないから」
大体何言われるかなんてのはわかってる。このパターンも毎回お決まりだ。
それに俺が研究を辞めて帰ってきた理由も知ってるくせに、本当に上手いと思う。
俺は勝手に悲しむ母さんをよそに、何度も見た田舎景色を眺める。
ここもだいぶ人が減ったな
今や宇宙にまで人が住む時代になって山奥の小さな集落は過疎化が深刻化していた。
幾つか田畑が潰れている。きっと後継が見つからず、閉めたのだろう。
今の時代、作物は宇宙栽培が基本だ。世界各国が農業宇宙ステーションを建て、魔導式転送装置によって各領地に運ばれる。地球での農産業など自給分の一割にも満たない。
そんなものを俺が継ぐことになるなんてな
別に強制されたわけではない。今の俺であれば断ることなんて容易だ。でも俺にはそれをできない希望と呪縛があった。
「着いたわよ。レイちゃんの部屋は綺麗に保存してあるからじゃんじゃん使っていいわよ〜!」
保存って……。
俺は荷物を下ろし、部屋まで運ぶ。
築500年の古民家だが、今も立派に建っている。
この古木の独特な匂い、実家に帰ってきた感覚が呼び起こされる。
それから俺は自分の部屋に入り荷解きをする。
本当にそのまんまだな
前回俺が使ったときから家具の位置など全く変わった形跡はない。
それどころかホコリひとつない。
保存とはこういう意味だろうか。
俺は部屋に物をしまっていると色々と懐かしいものが出てきた。
「おぉ!これは俺が幼稚園の時に初めて作った魔導式ミニロボット、R000!」
体内魔素を感知して動く仕組みになっていて、一度登録した魔素以外では動かない仕組みになっている。
魔力充填式な為、そこそこの魔力を溜めないと鈍い動きしかしないので、魔力レベルの低い人には使いにくかったりする。
「今でも動くかな?」
俺はR000の頭に手をかざして集中する。
すると手元が光り始めて、R000の頭も光り始めた。
そこから1分ほど注ぎ込んだ。
「こんなもんだろう」
ピコン!!
音が鳴ると起動の合図だ。
目に光が宿り、髪が変色する。
肌の色が明るくなると起動完了だ。
「おかえりなさいませ、お久しぶりですマスター」
背は俺の小学4年の時と同じぐらいだろうか。綺麗な女の子が俺の前で片膝を立てて下を向いて忠誠の意を示す。
「ただいま、楽にしていいぞ」
「はっ」
R000は顔を上げるとその場に正座をする。
今見てもいい出来だな
正直言って当時の俺がこれを作ったとはあまり思えないほどの出来だ
やっぱり俺って天才だな
「うーん、何か不具合はないか?」
「はい、マスターの身体、精神共に正常です」
「いや、そうじゃないんだけどな」
しかし、無表情のまま答える彼女に少し疑問を持つ。
あれ?この子に感情の設定って付けなかったっけ?
俺はR000の記憶を思い出そうと少し考える。
「ッ!!」
ある時の記憶を呼び起こそうとした途端、頭に頭痛が走る。
「マスターに異常発生!!これより緊急措置を行います!」
「って、え!?ちょっと、待って待って!」
俺はR000の突然の暴走を宥めて落ち着きを取り戻す。
びっくりした〜、こいつ俺のこと心配し過ぎだろ
いや、俺がそう設定したんだけどさ…
それにしてもまさか俺にメモリロックをしていたとはなぁ
メモリロックとは記憶の一部を故意に封じ込めること。
その記憶を無理に思い起こそうとすると、頭痛が走り、人間性が壊れてしまう恐れもある。
ま、何にせよ鍵がないこの状況で触れるのは危険だな
俺はR000を見る。
すると、すでに魔力が切れたのか元の状態にまで戻っていた。
「お前にはこれからかなり世話になるからな、そのうち分かるだろう」
俺は立ち上がり彼女の頭を撫でると呟いた。
「これからよろしく頼むな」
そう言って俺は部屋をあとにした。
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