バイト先にて

水谷一志

第1話 バイト先にて

 一

 俺がこのコンビニでバイトし始めて、もうすぐ1年になる。

 そして今、俺には気になる子がいる。

 それは…、最近入ってきた、同じバイトの女の子だ。

 その子は背が低く、ダークブラウンの髪をいつもヘアゴムでまとめてポニーテールにしている。また目はそんなに大きな方ではなく全体的に薄い印象の顔だが、よくまとまっており「和風美人」のイメージの顔だ。

 そしてこれも大事なポイントだが、彼女の声は適度に高くて女の子らしい。それはもちろんであるが金切り声のように通り過ぎず、またハスキーボイスのようにしゃがれてもいない。その声はいい感じに俺の耳に入り、いつも俺はそんな彼女の声に癒されている。

 そして俺はそんな彼女に勝手に恋をしているのである…が、そんな俺には心配事が1つある。

 それは、「とあるコンビニの客」のことだ。


 二

 「いらっしゃいませ!」

彼女がその美声をとどろかせ、その客がやってくる。

 そいつはもちろん男。俺より背が高く、茶色に染めた髪にパーマを適度にかけたいわゆる「イケメン」だ。

 そしていつも、彼女に何かと声をかけ、親しそうにしている。

 そして俺は思う。

 『こいつ…この男は、彼女の彼氏なんじゃないか?』と。

 そう思いだしたら俺の勘ぐりは止まらない。

彼女はやっぱりあいつのことが好きなんじゃないか?そして2人は付き合っていて、バイトが終わった後密会しているんじゃないか…?

 いや密会というのはおかしい。別に付き合っているのを俺に隠す必要はない。ってか俺は彼女のただのバイト仲間…、少なくとも今のところはそうだ。だから彼女のことをとやかく言う権利は…、残念ながらない。

 いやでもこれは密会だ!俺はそう思いたい。そして俺はそのバイト外での密会現場を、週刊誌の記者のようにおさえて写真を撮って…、

 ってかヤバい。そんなことしたら俺はただのストーカーじゃないか。

 俺はバイト先で、そんなことを考える。ってかこれではバイトの業務に集中できない。…まあバイトだしいっか。

 でもまあ彼女はあんなタイプがいいのか?あんなチャラそうな男…、絶対浮気しているに違いない。そうだ!それこそ俺は週刊誌の記者のようになって、あの男と他の女の正真正銘の「密会」現場をおさえて写真を撮って、彼女に現実を知らせてやる…!

 ってか本当にヤバい。まだ彼女とあの男が付き合っていると決まったわけではないのだ。

しかし、俺の妄想は止まらない。


 三

 そしてその日も、その男はうちのコンビニにやってきた。

 その男はガムを買いに来て、彼女のレジに並ぶ。

 『うわ、最悪のシチュエーションだ…。』

俺は全ての思考回路を彼女とその男に向ける。

 …やはり、彼女と男は親しそうに話をしている。

 そして去り際、彼女は男に声をかける。

「いつもありがとね、【お兄ちゃん】。」

「…えっ!?」 (終)


 次の主人公、【お兄ちゃんの男】


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バイト先にて 水谷一志 @baker_km

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