第11話 火事

 

 林の中に逃げ込んではみたが。

 俺達の逃げるスピードに追い付かない様だ。

 その速度は極端に遅い。

 しかし、結局は倒さなければ帰れない。

 このまま逃げ回っていても一向に埒が明かない。

 そして、なによりもあの巨体なのに体力が無限に有りそうな動き。

 林の木を噛み砕き、体重で押し潰し、木々の隙間に甲羅をねじ込みなぎ倒す。

 確かに遅いが、その進む速度はどんな障害でも変わることがない。

 つまりは、俺達の体力が尽きたその時が終わりだという事だ。

 「ヤバイよね?」


 「ヤバイなんてもんじゃ無いわよ! 絶望的じゃない」


 確かに、デカイし固いし……打つ手が無い。

 イヤ、何かあるはずだ。

 考えろ!

 と、そこそこの距離を開けて観察をしようと構えたその時。

 アスピドケロンの口が大きく開いた!

 その口に火の玉が少しずつ大きくなる。


 「あれって……撃つの? 吐くの?」

 委員長が右往左往し始める。


 そして、その疑問の答えは吐くだった。

 辺りを燃やし尽くす勢いで火を吐き続ける。

 林が炎に包まれた。

 俺達は、委員長の予測のお陰か、辛うじて避ける事が出来たのだが。

 火の周りが早く、もう逃げ場がない。

 もう次の火炎放射攻撃には為す術がない。

 

 アスピドケロンはその事がわかっているのか、余裕を見せながらに口を開いた。

 火が溢れ出す。


 「一か八か……最後の手段だ」


 「何する気?」


 「俺が走り出したら、皆は亀の横をすり抜けて池に潜れ!」


 皆に頷き、自身に頷いた。

 覚悟を決めた俺は、一目散に走り寄りその口の中に爆竹を残り全部、箱のままに放り込んだ。


 そして、そのまま池に飛び込んだ。

 皆が池の中に潜ったのは勿論確認してだ。

 

 大爆発が連続して起きた。


 亀はその体を陸に上げている。

 水面下に伝わるものも無い。

 だから衝撃は水に伝わらず、逆に和らげてくれた。

 それでも、相当な衝撃が来たが。

 気を失うまではいかない。


 爆発が収まった頃合い。

 息が限界でもあって、水面に顔を出した。


 「やったわね!」

 先に浮上していた委員長が俺に抱きついて来た。


 見れば、アスピドケロンが煙に成りつつある。

 「勝った……」

 大きく息を飲み込み。

 そして、吐いた。





 アスピドケロンの残したカードを確認する。

 やはり、出口だ。


 「帰ろう」


 「そうね……このままココに居ても、周りは火事だし、何処にも行けそうに無いわね」

 頷き。

 「帰りましょうか……」

 少し……どころか随分と心残りが滲み出ていたが、そんなのは気にしない。

 気付かない振りだ。

 もう……疲れた。





 いつもの駄菓子屋の前でへたり込む二人。

 

 「今回のは、疲れたわね」

 見れば、ぐったりとしている。


 俺も限界だった。

 「次は……」

 1日2日は休みたい。

 幸い明日は土曜日だし、ゆっくり寝たい。

 と、かんがえていると。


 「疲れたから」

 

 委員長も同じ考えか。


 「明日のお昼にしましょう」


 ! 違った。

 どんだけ元気なんだ。

 

 「イヤ……」

 

 「明日はお弁当を造って来てあげるわ、嬉しいでしょ」

 有無を言わせる気は無いらしい。

 仕方無しにだが頷いた。

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