第10話 アスピドケロン
池に引き摺り込まれた委員長を見て。
俺も池に飛び込んだ。
まだ浅瀬だ、と水飛沫を蹴りあげ走り込む。
暴れる委員長にサルギンが手間取ってくれたおかげか、一段深くなるその場所で、あっ! と伸ばした委員長の手を水面ギリギリで掴む事が出来た。
そのまま踏ん張り引っ張り上げる。
委員長を生き餌にサルギンの一本釣り。
空中を舞う委員長とその足に付いているサルギン。
一回転しながら池から陸へ。
ソコを猫が剣で突く。
サルギンはボワンと煙に成った。
「水際は危ない!」
そう叫んで委員長を引き摺り林のきわにまで逃げた。
その間に続々とサルギンが上陸して来る。
それを手当たり次第に小石弾で撃ち抜いていく。
幸い小石は足下に転がっていたので、それを拾っては撃つを繰り返す。
俺の前に立つサルギンが次々と煙に成りカードに成った。
それでも数が多い、減るよりもそれ以上に増えていく。
「ボスを探して下さい」
叫ぶランプちゃん。
「ボスを倒せば残りは逃げて行きます」
「何処よ」
ずぶ濡れの委員長も叫び返す。
「ニヤ」
剣を構えたままで左手で指差した、その先は浮き島のほこら。
目の前に群がるサルギンを撃ちつつに見ればソコに、赤い毛布の様なマントを羽織、頭に金色の大冠を被ったサルギンが居た。
マントと大冠、以外は全くのサルギン。
それが無ければ区別は付かない。
だが、わかり過ぎるくらいに露骨だ。
俺はしっかりと狙いを着けてパチンコのゴムを引き絞った。
だが、その射線上に雑魚サルギンが被る。
それを避けるように横にズレてまた構えた。
それでもまた、雑魚が邪魔をする。
「早く撃って!」
委員長の悲鳴?
「サルギンが来る」
間の前、直ぐには雑魚がワラワラと近付いていた。
「コイツらが邪魔で撃てない」
「爆竹を貰うわよ」
そう言って、俺のポケットから箱ごと取り出した。
「火を頂戴」
ランプちゃんに命令している委員長の手には一束の爆竹。
「そんなにいっぺんに!」
数は20連!
止める間もなく火を付けて、サルギン達のど真ん中に投げ込んだ。
「逃げろ! 巻き込まれるぞ」
「大丈夫よ! 私が投げれば普通の爆竹よ」
パチパチとはぜる連続音。
だが、そんなモノに経験の無いサルギン達は驚き、飛びすさった。
「今のうちよ!」
確かに目の前が開けた。
癇癪玉に持ち変えて。
ほこらの前に立つサルギン王を狙う。
目と目が合った。
一瞬の躊躇。
それが逃げるすきを与えた様だ。
素早くほこらの影に隠れる。
俺が撃った弾はそのほこらに当たって爆発した。
石で出来ているそれはもちろん少し焦げただけ。
素早くもう一発と構え直して撃つ。
「それじゃ駄目ね!」
叫んだ委員長が爆竹を1本渡してきた。
「それをパチンコで飛ばして、出来るでしょ」
出来るかと言われれば、出来るのだろう、が……。
失敗すればすべて終わりだ。
「グダグダ考えてないでやりなさい!」
覚悟を決めて、パチンコに横向きにした爆竹を挟み込む。
導火線は上を向いている。
「ランプちゃん、俺の右肩に来て」
そして、引き絞る。
右耳からジジジジっと音がし始めたその瞬間に撃ち出した。
狙ったのはほこらの中。
俺の撃つ爆竹の破壊力ならほこらごと吹き飛ばせる筈だ。
だが、それを見ていたサルギン王。
感が良いのか? 危機回避能力が高いのか?
撃ち込む間際に、マントと王冠を投げ棄てて池に飛び込んだ。
ドカンとほこらだけが吹き飛ぶ。
高く飛び上げられた石の板が水面に落ち、水飛沫を巻き上げる。
「逃がした!」
「なにしてんのよ!」
そこらに落ちていた木の棒を振り回し叫んでいる。
サルギンが、その長くない棒を武器とするぐらいに近付いているという事だ。
「囲まれるじゃないの、なんとかしなさいよ」
小石に持ち変えて、委員長の目の前のサルギンを撃ち抜く。
猫も剣を辺り構わず振り回していた。
「石が浮いてます」
ランプちゃんがわけのわからない事を言う。
「そんなわけ無いでしょ!」
委員長が怒鳴り、そして頷いた。
「あらほんと」
ナニが? と、池を見れば確かに石が浮いている。
さっきのほこらの石だ。
「サルギンは水の中にいる魔物でしょう、王のマントと大冠と銛を使えてほこらも建てられるのだから、少しは頭も良いでしょうよ」
棒を振り回すのは忘れずに。
「水に浮く軽石が不思議に見えてもおかしくない、それが神聖なモノに感じたのよ、だから軽石でほこらを建てたんじゃない?」
暴れながらの委員長の講釈。
成る程と納得してしまった。
「あの浮いている石に、爆竹をうまく乗せられたら、ガッチン漁が出来るのに、さっきの小川でやった様に……なんとか出来ないの?」
そう言いながらに爆竹を箱ごと投げて寄越す。
また、委員長の無茶振りだ。
石に目掛けて真っ直ぐに撃っても跳ねて池に落ちるだけだ、石の面が狭すぎる。
アレ……真っ直ぐじゃ無くて、上から落としたら?
ランプちゃんに声を掛け、真上に打ち上げてみた。
鋭角な弧を描き、石の上でほぼ真上に跳ねる。
が、少しの角度か、水面に落ちて導火線が水に浸かる。
もう少しだげ、手前か?
もう一度打ち上げた。
今度は石の上で跳ねて、石の上に落ちた。
そして、ドカン!
水飛沫が柱の様に為りたちのぼる。
一度沈んだ石がまた浮いてくる。
もう一発。
ドカン!
数引きのサルギンが引っくり返って浮いてきた。
続けて、別の石に爆竹を落とす。
ドカン!
次々と岩を変えて撃ちまくる。
そこかしこで水柱が上がり、そして水面はサルギンで覆い尽くされていく。
目の前の一匹の動きが変わった。
池の方を向き、立ち竦む。
それに反応するように別のサルギンも動きが止まる。
あの中に王が居たのか?
と、考える間に一斉に反転して逃げ始めた。
「やったのね、逃げていくわ」
大きく息を吐き、膝を着く委員長。
「いえ……まだです」
それを否定するランプちゃん。
しかし、一目散に逃げたサルギン達の居ない池とその周りはシンと静まり返っている。
今、動いているのは水面に浮いている石だけ、ユラユラと……タプタプと……ジャバジャバと……。
もう爆竹は撃っていないのに、何時まで経っても揺れは修まらない。
それどころか、風にして不自然な程の波と揺れ。
「あの島……動いているわね」
委員長が棒切れで差す。
見れば、確かに動いていた。
ゆっくりと回転している。
そして、こちらに近付いて来る。
「島自体も軽石か? 浮いていたのか?」
そんな疑問も直ぐに答えが出た。
ザバッと水面が割れて島が立ち上がった。
そして、首が伸びてきてこちらを向く。
「デカイ!」
「亀?」
俺と委員長が同時に叫ぶ。
「アスピドケロンです」
一呼吸遅れてランプちゃん。
「ナニそれ?」
「亀のモンスターです~」
確かに亀だ。
亀なのだがデカ過ぎる。
見た目そのまま、みどり亀だなのだが、チョッと小さい2階建ての一軒家程もある。
それが口を大きく開けてコチラに向かって来た。
陸に半分程上がって、ソコで進むスピードは極端に落ちたが、それでも圧倒的な迫力を見せている。
「まさか……アレが出口じゃ無いわよね?」
委員長の声が微かに震えている。
「ここで一番強いのがアレだと思います~」
ランプちゃんの声も震えている。
「だから……たぶん……出口です~」
「あんなのどうやって倒すのよ!」
ユックリと巨体を引き摺り、それでも確実に迫ってくる巨大みどり亀。
「なんか……怒っているッポイし」
あれだけドッカンドッカンやれば……それは怒るか。
「怒らしたのはあんたなんだからなんとかしなさいよ」
そう言われるのはわかってはいたが……どうすれば?
とにかく爆竹を撃ち込んでみた。
甲羅も岩並に固いのか、ビクともしない。
「いったん逃げた方が良さそうね」
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