第25話 お姉さん

フッフ~ン。


どうやら無事に結界を抜けたな。


おお、忘れずに結界を元に戻さないとな。


結界に俺の魔力を浸透させて空けた穴を塞ぐ。




ピロリン スキル ケッカイを獲得しました。




お、ラッキー。


久々に新スキルを覚えたぞ。攻撃スキルじゃないのは残念だけど。


「結界に侵入したのはキサマかぁ!」


「へ?」


強大な魔力を持つ何かが俺に向かって飛びかかってきた。


魔力感知で気が付いたときには大剣が俺を真っ二つにするために目の前(※スライムに目はありません)に迫っていた。


しかも膨大な量な魔力を大剣が放っている。


具体的には俺をバターを熱したナイフで切るように俺の体を切れるくらいに大量にだ。


さて俺が魔力で強化した触手で受けても無駄なのは確実だ。


ホント困った。俺はこんなところって言うかどこでも死にたくない。


ここはあれだ。俺のラノベ知識によれば主人公補正でもって覚醒するシーンだな。


って言うか何か大剣の動きがスローだな。




ピロリン スキル こうそく思考を獲得しました。




おお、ラノベで必ず出てくると言われる代表的スキルこうそく思考を獲得したぞ。


さすが俺。間違いなく主人公だな。


『ビジアンヌ様の寵愛のお蔭っすよ。旦那が主人公だったらこの世の終わりっす。』


ビジアンヌの寵愛を持っている時点で俺主人公じゃん。


フッ、完璧な理論だな。


『・・・・。』


どうやらヤスは完璧過ぎる理論に何も言えないようだ。


『(呆れてるだけっす)』


主人公たる俺はこの危機的状況を切り抜けられる。


・・・どうしよ。


防御力を上げるには魔力を集めて強化すれば良いのだがそれだけではあの大剣を防げない。


ほかに防御力を上げるにはスライムの身体そのものを強固にするしかない。


ラノベ場合、スライムの身体が取り込んだ素材に変化するパターンがあったはず。


俺が今まで取り込んだ中でもっとも固いのはゴブリンが持っていた鉄の剣かな。


鉄、鉄、Fe、Fe、ほかに炭素やその他もろもろの元素を合わせてみるか。


イメージ、イメージ、イメージが大事なはず。




ピロリン スキル 変態を獲得しました。




身体は変化出来た。


スキルも獲得した。


でも何でスキル名が変態なんだ。


確かに虫が蛹から成虫に変わることを変態っていうけど普通ここは変化とかじゃない。


『エロエロマジックスライム(М気質)にピッタリのスキルっすね。』


クッ、しかし目的とする効果が得られたんだ。


とにかく大剣の攻撃を防ぐぞ。


金属化した触手で大剣を受け止め(スパッ)れない。


「ちょ、ちょ、ちょっと待てぇ!」


おかしい主人公である俺が新しいスキルを覚えて窮地を脱するはずなのになぜだ。


アレ、俺主人公じゃない?


スキルこうそく思考のお蔭でまだ考える余裕があるけど、どうしよ。


『旦那が真っ二つになるのは自由っすけどこのままだとユズが巻き込まれるっすよ。』


そういえば俺の上にユズを乗せたままだった。


防御、防御、防御!


触手を時間が許す限り生み出し金属に変化(決して変態ではない)させ続ける。


(スパスパスパ)


しかし、全く大剣を防ぐことができずまるで豆腐を切っているかのようにスパスパ切れていく。


何で金属がこうもあっさり切れていくんだよ。


何とかユズだけでも助けないと。


「スライムさん大丈夫。サクラ姉ちゃんいい加減にして!」


ユズの叫びと共に大剣がピタッと止まる。


「安心しなユズ、姉ちゃんの剣の腕前ならユズを一切傷つけずにそのスライムを真っ二つにできるから。」


どうやら俺が覚醒したスキルを物ともせずに叩き切っていたのはユズの姉ちゃんらしい。


顔は頬にいくつか傷があるが野性味あふれた美しい顔のアクセントになっている。


身長も2メートルを超え全体的によく鍛えられて引き締まったキレイなバディラインをしている。


そしてもっとも重要な胸部装甲も申し分ない。


現代で言えば美人アスリート、ファンタジー世界風に言えば美人傭兵と言うイメージがピッタリだろうか。


「そういうことじゃないの。スライムさんはビジアンヌ様の使徒様なんだよ!」


「あ?何言ってんのユズ。この怪しいスライムがあんたの言っていた使徒様だって?みんなの言うこと聞かずに一人で集落を飛び出して言うことはそれかい。」


この野性味溢れる鬼人族はユズのお姉さんでユズは家族に黙って俺を探して人族の街に来たってことね。


しかもどう見てもスライムにしか見えない俺を使徒と言うことに怒っていると。


「一人で村を出たのは悪いと思っているよ。でもいくらサクラ姉ちゃんが強くても一人でオークの軍団と戦うなんて無理だから使徒様の力が必要だと思ったの。それにスライムさんは見た目はスライムだけどとっても強くて良い子だよ。ちょっとエッチだけど。」


あ、やっぱチラチラ見てたのバレた。


本音察知なんてスキルを持っているから俺の考えていることはほぼ筒抜けなんだろうから今更か。


俺だって一応男の子(スライムに性別はありません)なんだもん。


何とか俺の天使だけに説得を任せておけん。


サクラさんを何とか説得しないと再び死ぬことになる。


言葉が出せない以上ジェスチャーで俺の意思を伝えないといけない。


「ん?このスライム触手をユラユラさせて何がしたいんだ?」


「スライムさんもサクラ姉さんと仲良くしたいんだって。」


「ホントかぁ?」


どうやら俺のジェスチャーでは意思疎通は難しいようだ。


ユズが変わりに伝えてくれるがやはりお姉さんは懐疑的だ。


こうなったらラノベで有名な念話スキルを取得するしかない。


俺のカンでは魔力を通してイメージを伝えればできるはず。


それはラノベ知識からも正解だと分かる。


魔力の糸をお姉さんの頭に繋ぐ。


「悪いスライムじゃないよ。」




ピロリン スキル念話を獲得しました。




よっしゃ念話獲得じゃ!


「あん、今のはこのスライムか。こいつ何言ってやがんだ?」


サクラはとても残念なものをみるような蔑んだ目で俺を見てくる。


アレおかしいな。これを言えばみんな分かってくれるはずなのに?


それにしてもお姉さんの視線はゾクゾクす・・・しないぞ。


『処置なしっすね。』

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