第17話 女の涙は

「イヤー、た、助けてぇ!」


急に現われた女の子の声が下水道に響きわたる。


俺の目の前で腰を抜かした女の子の額には小さな突起がある。


『旦那、旦那。この子鬼人族っすよ。』


人族を一掃してくれって話はビジアンヌから聞いていたけど鬼人族ってのは聞いてないな。


「鬼人族ってのはどんな種族なんだ?」


『鬼人族は人族と違って元からこの世界にいた種族っす。余剰魔力でさらに肉体を強化する身体強化が得意な種族っすね。』


つまり如何にもか弱そうなこの子も油断していたらこの世とおさらばすることになるかもしれないってことか。


原住種族ってことなので懐柔作戦だ。


「俺は怖いスライムじゃないよ。」


『そうっすね。旦那はエロいスライムっす。』


おい、余計なことは言わんでよろしい。俺をエロ扱いするのは一人で十分なんだから。


「スライムが怖くないってそんなわけないわ!あたし食べられちゃうんだ。みんなの言うことを聞かなかったからバチが当たったんだ。ワァ~ン。」


困ったぞ。


鬼人族の女の子がついに泣き出してしまった。


俺には子供をあやす能力もスキルもないぞ。


前世には保育士さんなる子供を世話する職業があったけど、俺には縁もゆかりもない職業だ。


「子供を泣き止ますためにはどうしたら良いんだ?」


『とりあえず、旦那の子供と同じようにすれば良いんじゃないっすか。』


「そうだな、俺の子供の場合は・・・・って嫁もいないのに子供がいるわけないだろ!」


『そうなんっすか。嫁はいなくても子供はできるっよす。』


「そうだけど、そうじゃないんだ。とにかく何か案はないか。」


『とりあえず高い高いでもしてみたらどうっすか。』


「それなら俺でもできるな。」


高い高い、それは両手で子供抱え上げ天高く子供を放り投げ優しくキャッチしてあげる遊びだ。


父親の力強さと優しさをアピールできる遊びでもある。


スライムに転生した俺は魔力量が増え力は十分にある。


それに加えてスライムの特性を生かせば優しく受け止めることもできる。


まさに俺のためにあるような遊びだな。


唯一の弱点はスライムには腕ないことだが、そんなことは俺には関係ない。


俺には触手スキルがあるからだ。ただのエロスキルかと思ったら大間違いだぞ。


『触手スキルは旦那の願望を具現化したエロスキルっすよ。現実を見ないとダメっすよ。』


・・・よし、俺の巧みな触手捌きを見よ。


『カッコ良く言っているつもりかもしれないっすけど、表現が卑猥っす。』


「キャー、ス、スライムが変な触手を出してきた。あたしをどうするつもりなの。村は貧しいから良いものなんて食べないからあたしを食べてもおいしくないわよ。」


触手でそっと鬼人族の女の子の背中を膝の間接をささえるとそのまま放りなげる。


「それ高い高~い」


「キャー、止めてぇ!」


『セリフだけ切り取るとエロいことしてそうっす。』


落ちてきた鬼人族の子を再び触手で優しくフワっと受け止める。


俺の触手捌きもかかればどんな生き物でも快適な高い高~いを体験できるのだ。


「え!?え!?これってどういう状況なの?なんであたしスライムに高い高~いされてるの」


「ホラ、高い高~い。」


「どういうことなの?なんなのこのスライム。さっきから高い高~いしながら高い高~いって言ってるのは何が目的なの?」


どうやら俺の高い高~いが快適で泣き止んだようだな。


まさかヤスの助言が役立つとは道案内以外にも役に立つとは、これでディスりがなければ言うことないのに。


「見ろ。俺の高い高~いでスッカリ泣き止んだぞ。」


『スライムが変なことをするから混乱しているだけじゃないっすか。』


おい、俺はお前の意見を取り入れただけだぞ。


それを変って言うのはどうかと思うぞ。


「あ、あのう~、そろそろ下してくれないかな。」


鬼人族の子が恐る恐るっと言った感じで触手の上からこちらに語り掛けてくる。


「あ~、ゴメンゴメン。」


女の子をそっと地面に降ろした。


『ワザとらしいっす。旦那のことだからどうせ女の子の感触を堪能していただけっす。』


おのれヤスめ、どうしても俺をエロスライムとして扱いたいらしいな。


『・・・・』


俺はエロくないぞ。


『そうっすね。』


そう俺はエロいことはしたことがない。


『そうっすね。』


前世では恋人さえいたことが・・・ない。


『悲しいっすね。』


「だからちょっとくらい良いじゃないか。別にいやらしくしく撫で回したわけでもないじゃん!ただちょっと触手で優しく受け止めただけじゃないか!というかそもそも泣き止ますには高い高~いすれば良いって言ったのはヤスだろ!」


『挙句の果てにはオイラのせいにするっすか。呆れても物も言えないっす。すべては旦那のエロさが招いたことっすのに。』


またしてもヤスにディスりのネタを提供してしまった。


「あの~、スライムさんは何者なんですか?ただのスライムじゃないですよね。」


なぜか急に女の子は俺に話かけてきた。


まさか高い高~いに女の子の好感度を上げる効果があったとは!


前世から知っていたら俺はモテモテだったのに


『そんなわけないっすよ。』


「あれ、おかしいな。さっきは意思疎通出来てる気がしたのに。」


あ、また女の子を放置してしまった。


「泣き止んでくれて良かったよ。やっぱり高い高~いのお蔭だよね?」


「え?高い高~いって何ですか?」


なんとこの子は高い高~いを知らないとは!


知らない子にも高い高~いは有用性を持っていると言うことか。


フッフッフ、これで子供が泣き始めても対処可能だな。


「まぁ、それは良いや。何で君はこんなところにいるの。」

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