第10話 第一異世界人

「ヤス、普通の手段はダメだって分かったけど、普通じゃない手段ってあるの。」


出来れば敵を増やすような手段以外が望ましいな。


『あるっすよ。一つは魔物を仲間にするっす。』


「ああ、テイムね。」


『テイム?何っすかそれは?』


おかしい、魔物を仲間にするって言ったよね。それってテイムスキルのことじゃないの。


「魔物を仲間にするスキルってテイムスキルだよな?」


『初めて知ったっす。そんな便利なスキルがあったんすね。』


つまりヤスが言う魔物を仲間にするってのはテイムスキルのことではない。


「スキルなしでどうやって魔物を仲間にするんだ。」


『そんなのボコボコにして従えるに決まってるっす。魔物は弱肉強食っす。強いものには従うっす。』


「簡単に裏切られそうで怖いぞ。」


『そうっすね。常に背中を警戒しておかないと偉いことになります。』


「却下だな。」


そんなの仲間じゃねえよ。しかもそれじゃ従える意味がない。


『そうなると、ゴーレムを作るか。死霊魔術を会得するかっすね。』


それは良いじゃね。ゴーレムなら裏切りとか無さそうだ。


死霊魔術はどうなんだろ?


「ゴーレムを作るのは魔法か?」


『そうっすね。無機物をゴーレム化するのがゴーレム創造。アンデットを作りだすのが死霊魔法っす。どっちも創造主に絶対服従らしいっす。お勧めは死霊魔法っすね。』


「何でだ。アンデッドってどう考えても外聞が良くないだろ。」


死体を使うのって嫌われるだろ。


『何言ってんすか。旦那は魔物っすよ。これ以上嫌われても問題ないっしょ。ゴーレムを教科しようと思ったら創造主が魔力を大量に与える必要があるっすけど、アンデッドはアンデット自身で魔力量を収集して強化できるんっす。』


アンデッドは俺が付いていなくても勝手に強くなってくれるわけね。


それはメリットだな。


仲間が増えたらゾロゾロ連れて歩くわけにもいかないからな。


「なるほど、そしたら死霊魔法を覚えよう。」


『そんなに簡単に覚え・・・旦那ならすぐ覚えそうっすね。』


さて中断していた下水道探索の続きを行なおう。




ヤスの道案内の実力が分かったので俺は多重魔力吸収を使いラットやコウモリを倒しながらヤスの案内に従って探索を行なっていた。


すでにラットもコウモリも敵ではないので半分ボーっとしながら移動していると今までにない物を魔力感知が捉えた。


「第一人族を発見したかも。」


魔力感知に人型の何かを捉えたのだ。


『逃げるっす。スライムの旦那に勝ち目はないっす。』


「もちろん、戦うつもりはない。隠れて情報収集だ。」


『何言っているんすか。見つかったら旦那なんて瞬殺っすよ。瞬殺。人族を甘くみちゃダメっす。アイツらいろんな便利な道具を持ってるんすから。』


「見つかったらすぐ逃げるから大丈夫だ。それに敵の能力やその便利な道具も見ておきたい。」


『ホントに気をつけてくださいっすよ。』


さてどこに隠れようか。


時間が無いので早く決めないといけない。


下水の中は却下、汚いってのもあるけど俺の魔力感知で水中の様子が分からないことからも中に入ると外の様子が分からない。


そこでスライムの特性を活かした隠れ方をする。


身体を限りなく薄くして天井に張り付くのだ。イセカヘウムのスライムは核が無いので薄くなるとほとんど見えなくなる。


身体の色も薄くなるとほとんど透明だ。


初めはどこかの隙間に隠れようと思ったけど狭いところは嫌いだし、そんなところに入っていたらもしもの時逃げ出せないから止めた。


俺が天井に張り付いたのを見計らったかのように足音が聞こえてきた。




「クセェな。」


「下水なんだから当たり前だろ。」


やってきたのは二人組みの男だ。魔力感知で把握した人数と一緒だ。


一人の男の手には灯を点した杖のようなものが握られている。火が点っているわけでもないのに光を発している。


「ギルドで借りた防臭マスク壊れてんじゃないか。」


「そう思うなら外してみれば良いだろ。」


「金が有ればこんな依頼受けなねぇのに。」


「お前が身の丈に合わない武器を買うからだろ。」


「冒険者には武器が必須だろが!」


こいつら大声で言い争いをして危機管理がなってないんじゃないか。


人族が全員こんなヤツラなら楽なんだけど違うだろうな。


「!静かにしろ。探知機に反応があった。」


「どこにいる。」


探知機とは俺の魔力感知みたいなことができる道具だろう。


こんなところで使われているってことは一般的な道具だろうから対策が必要だな。


男二人は辺りをキョロキョロ見回しているが俺には気がついていないようだ。


近くにいるのは分かるけど正確な場所は分からないみたいだ。


「クソ、もっと性能の良い探知機を買ったら良かった。」


(チャポン)


「もしかして下水の中にいるんじゃないか?」


「そう言えばギルド員が下水の中の魔物に気をつけろって言ってたな。」


「なぁ、もう帰ろうぜ。これだけ臭いが酷いんだ、どうせ今までのヤツも碌に調査してないだろうさ。それに出てきた魔物もラットとコウモリくらいだ。」


「そうだな。どっちにしろ下水の中の魔物には俺達じゃどうしようもないからな。」


二人組みの男はそういうともと来た道を帰っていった。




「なんかいい加減なヤツラだったな。有用な情報は探知系の道具と灯の道具が一般的にあることくらいか。」


『危険を冒したわりには微妙な情報でやんすね。』


相変わらずヤスはディスってくれるぜ。


「スキル以外で探知が行なえることが分かったから対策が必須だな。」


ヤスのディスりはスルーしておく。


『旦那には知っておいて欲しいんすけど、あの道具には妖精と精霊が使われてるっす。』


ん?


妖精と精霊ってこの世界に元からいる生き物だったよな。


その2種族が使われているってまさか。

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