第3話 《正義の味方》

「それで場所は?」

「ここから南東に2キロくらいかな」


「駅北の歓楽街のあたりか――」

「雑多で入り組んでて雑然とした、夜遅くになっても人が多いところだね」


「強い想いの実体化である《想念獣》が生まれるには、ま、うってつけの場所だわな」

「大きな騒ぎになる前に仕留めるよ」


「わかってる――行くぞ」


 それで会話は終わりとでも言うように、俺は闇色のマフラーを引き上げて覆面のように口元を隠した。


 そのまま闇に同化しつつ駆けだす姿は、自分で言うのもなんだが、どう贔屓目ひいきめに見てもとても《正義の味方》には見えないだろう。


 ま、今はそんなことはどうでもいいか――。



 そうして走ること10分ほどで、俺は駅北の歓楽街へとやってきていた。


「多分このあたりのハズだよ」


 クロの言葉に足を止めた場所は、よくある4、5階建ての雑居ビルの屋上だ。


 俺は目を閉じるとクロの探知に便乗するようにして、周囲の気配を探っていく。

 そうして意識を集中すること、数十秒ほどで――、


「見ーつけたっと」


 言うや否や俺は目標めがけて、ビルの屋上から屋上へと次々に跳び移ってゆく。

 近づくにつれて、その姿がはっきりと視認できるようになり――、


「人型……! まさかアイツ――」

「うーん、隠そうともせず無闇やたらに力をまき散らしてる。この何もわかってない感じは、まだできたばっかりの《想念獣》だね」


「まぁ――そうだよな」

「でも知恵をつけて人間の言葉を使いはじめると厄介だ、ここで逃がさず仕留めるよ」

「分かってる――」


 それで会話を切り上げた俺は、最速にて目的地真上まで到達すると今度は迷うことなく一気に地上へと飛び降りた。

 その先では人型の《想念獣》が、今まさに女の子に襲いかかろうとしていて――、


「――っ!?」

 ここにきてやっと人型想念獣は落下してくる俺に気づいたのか、ハッと顔を上げてこっちを見上げてくるが――、


「もう遅えぇっ――!!」


 着地と同時に女の子の脇をすり抜けると、俺は一瞬で《想念獣》の懐へと駆け込んだ!


「《瞬転穿しゅんてんが》――!」


 その勢いそのままに、移動力と体重を乗せた左肘鉄を人型想念獣の鳩尾へと叩き込む――!


 さらに俺は間髪入れずに追撃。

 短い間合いを維持したまま、右のアッパーを連続してボディに叩き込む。


 強打の連携でもって、一瞬にして戦いの流れを引き込むと――、


「《螺旋槍らせんそう》!」

 必殺のフィニッシュブローお見舞いする――!


 右足で大地を強烈に踏みつけた反発力を、即座に横回転へと変換。

 「溜め」を連鎖して「うねり」の力を構築し、《想念》放射とともに力の終着点たる右の拳を打ち放つ――!


 ――まさに電光石火の先制攻撃。

 会敵かいてきからわずか十秒もたたないうちに、俺は苦もなく人型想念獣を葬り去ったのだった。


 人型の《想念獣》は中空で光の粒子へと変わっていき、最後に残った赤色の宝石――《想貴石そうきせき》を俺は左手でキャッチした。


「お見事」


 ちょこんとマフラーから首を出したクロが、一連の討滅劇をこれ以上なく簡潔にめたたえてくる。


「言っただろ、大したことないってな」


 こうして。

 あっけないほど簡単に、今晩2度目となる討滅は完了したのだった。

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