第19話 「持ってる」少女

 そうして。


 マナカを抱えながら大まかなことを説明し、好奇心旺盛で(主に陰陽師要素について)矢継ぎ早に質問を繰り出すマナカに適当に答えながら、ビルの屋上を跳び跳び巡回をしていたところ――、


「――っ!」


 突如として、言いようもない悪寒が俺の背筋をかけのぼった。

 意識が一瞬で戦闘モードへと切り替わる――!


 俺は移動を止めると、見晴らしのいいスーパーの屋上駐車場にマナカをおろした。


 そして、

「クロ」


 若い2人の邪魔をするのは悪いから――とかなんとか言って黙って引っ込んでいたクロを呼び出した。


「はいはーい、もちろん気付いてるよー。これはかなり近いね。多分もう目視できる距離にいるはずだよ。力も大きい――いや、でもなんだろう、これ。なんか変な感じだね――」


 クロと同じ疑問を俺も感じていた。

 気配がぶれているというのだろうか。いつもと少し感じが違っているのだ。


「いいか、マナカ、ここで待っていろ。絶対にここを離れるな」


 さっきまでとは違う有無を言わさない俺の態度に、マナカはこくんと素直に頷いて返してきた。


「オッケー、いい子だ」


「ユウト、ちょっと気配がおかしいよ。注意して」

「ああ、俺も嫌な感じがびんびんしてる」


 これは――偶然が偶然を呼び寄せたか。

 さっきの今で、いきなり訪れた大きな変化。


 やはり愛園マナカは何かを引きよせる「持ってる」少女だ。


 俺は屋上駐車場から一気に飛び降りると、気配を忍ばせながら駆け出した。

 その向かった先にいたのは――、


「な――っ、《想念獣》が2体だと?」


 ヒグマのようなずんぐりとした姿かたちをした個体と、ライオンの様な俊敏な姿をした個体、2体の《想念獣》だった。


 その2体が何をするでもなく佇んでいて――いやこれは――!


「――っ! ユウト、誘い込まれたみたい!」


 クロが叫んだのと同時に、ライオン型が猛烈な勢いで俺に向かって突っ込んできたのだ――!


 間髪入れず、なにをどうの考えるよりも先に俺の身体が反応した。


 左にフェイントを入れ、瞬時に切り返して右に跳んで、突進をかわす――!


「っ! 速い――!」


 しかし完全にかわしきったつもりが、矢弾のごとき高速タックルに軽く接触してしまい、


「ぐぅ……っ!」


 しっかりと両腕でガードをしたものの、突進の衝撃で俺は大きく弾き飛ばされてしまう。


「こなくそ――!」


 間違っても戦闘中にこけるわけにはいかない。

 俺は体中の筋肉を総動員、踏ん張ってたたらを踏みながらも、どうにかこうにか転倒を堪えた。


 対するライオン型はというと、初撃はかわされたものの強靭な体躯を存分に使って急停止。


 でかい図体のくせにひらりと舞うように反転すると、第二撃を入れるべくすぐさま襲いかかってくる――!


 だが先ほど大きく弾きとばされたことが幸いして、少し距離が開いていた。


 お構いなしに距離を詰めてくるライオン型を、体勢を立て直しつつ、やや下がりながらかわしていなし――そこにほんのわずか一瞬の隙を見つけると、


「ここだ――!」

 

 一撃必殺の奥義|螺旋槍《らせんそう》のモーションに入るべく、俺は右足で大地を踏みしめた――その瞬間!


「ユウト、真後ろ! 死角からヒグマ型がくる――!」


 クロの警告が、飛んできた――!

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