第14話 必然

「むしろユウトくんはおうちの人が心配しないの? お姉さんがいるんだよね?」

「俺は――ま、特にそういうことはない」


「――あ、うん。そっか。分かった」


 夜な夜なこんなことをしている俺が、普通の家族生活を送ってるはずがないことくらいは、マナカもすぐに思い至っただろう。


 だがあきらかな嘘と分かっても、伝えたくないという俺の気持ちを忖度して、マナカはスルーしてくれたのだろう。


 ほんと、いい子だな。


「ところで、なんだけど」

 マナカが急に小悪魔っぽく笑った。


「さっきわたしのこと、可愛いって言ったよね? よね?」

「……記憶にないな」


「言ったよ」

「どうだろうか?」


「言ったもん」

「言ってないんじゃないか?」


「言ったもんね! えへっ、わたし可愛い女の子?」


「……ひとまず俺の主観はおいておくとして。極めて客観的な観点から第三者的に評すれば、まぁ、そうといえるかもしれないな」


「むぅ……なにそれ。まったくもう、素直じゃないんだから」

 だからその無駄に可愛いふくれっ面はやめてくれ。ちょっとドキッとするだろ。


「それはそうとしてだ。どうやって俺の居場所が分かったんだ?」

 ここは昨日マナカと会った地区とは駅をはさんで東西逆方向。


 そうでなくとも俺の出向く範囲は市街一帯であって、そもそも出歩かない日もある。

 つまりマナカが理由もなく俺と出会える確率など、実質ゼロに等しいはずなのだが――。


「うんとね、なんとなくこっちだって思っただけ。女の子の勘、かな?」

「勘ってお前……」


 その答えは、あまりにあまりすぎるだろうよ……。


 ――と、


「女の子の直感は、過程を説明できないだけで、物事の本質を本能的にとらえたものだと言われてるよ。何をするにせよ理由を付けたがる男の子のユウトが考える以上に、鋭く本質をつくものさ」


 今まで黙っていたクロが、俺の首元からぴょこっと顔を出した。


「あ、クロちゃんだ。わんばんこ~、ごろごろ~、あいかわらずもふもふ偏差値マックスだね。あ、そうだ、ちゅ~るもってきたんだけど、食べる?」


「ほんと? わーい」


「……クロ、お前はいったい何をしに出てきたんだ?」


 ちなみにちゅ~るとはCMでもお馴染み、高級猫エサ界を席巻するいなばの液状ペットフードのことだ。


 俺もクロにねだられて何度か買ってやったことがある。


 ご馳走を用意されすっかりマナカに懐柔されてしまったクロを俺がにらみつけると、


「ゴホン。まぁ、つまりだね。ボクが言いたいのは、《認識阻害》が通用しないことと、今日出会ったこと。2つには共通の理由があると思うんだ。例えばマナカに何らかの力がある、とかね」


「ふむ……それは一理ある」


 偶然というのはままあるものだ。

 だが偶然が2つ続いたとしたら?


 それは偶然ではなく、必然と考えるべきだ。


 偶然だと放っておいて、足下をすくわれたと後から嘆くのは愚か者のすることだ。

 そして得てして、重なり合い必然となった偶然は、さらなる次の偶然をも引き寄せる――。


「なにかが変わるかもしれない、か――」


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