第6話 古い記憶
――僕は、夢を見ていた。
まだ何も知らない子供だったころの、古い記憶だ――。
目の前には一面の赤、
熱い熱い炎の海だ。
見慣れた柱や梁が
太陽が中点を頂いてもなお、寒さ残る
炎の奥では
そんな真っ赤な地獄絵図の中に、時おり混じるは蒼い
幽鬼のようなそれは、悪鬼羅刹のごとく縦横無尽に暴れまわっては、次々と命を散らしていった。
《
そんな惨状の中、物陰に隠れた僕は、必死に息を殺して縮こまっていた。
手の中には、
「お守りだよ」
そう言って大好きな姉から渡されたピンクの携帯電話。
僕はただ、それを握りしめて、握りしめて――握りしめつづけた。
全てが終わって取り返しがつかなくなる、その時まで、ずっとずっと。
僕は隠れながら、携帯電話を握り続けた――。
――俺は、夢を見ていた。
まだ何もできない子供だったころの、もう2度と取り戻せない、古い記憶だ――。
「か――はっ――ぁぐ――っ」
トラウマに誘発された心因性の過呼吸がおこって息が苦しくなり、それによって意識が覚醒へと向かい始める。
この夢を見た時はいつもそうだった。
医者の見立てによると、過換気症候群と呼ばれる心因性のものらしい。
――今日もまた、1日が始まろうとしていた。
《
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