第3話;舞踏会
王都にはボーネット伯爵家の屋敷がある。母が健康で私がまだ生まれていなかった時、社交界時期に王都のこの屋敷で過ごしていたらしい。私が出来てからは利用されていない。
前もって管理人に連絡がいっていたため、ついてすぐに部屋は利用出来るようになっていた。
「王都の屋敷ってさすがね、使用人の部屋も奇麗」
「ほんとう・・・凄い」
私はここで自分の家系が結構な貴族なのだと痛感した。
田舎の屋敷と違い、冷暖房は魔法具が屋敷に施されていて、暖炉の前で寝るなんてことをしなくていいんだなと流石都会だわと思った。
舞踏会の日、朝から3人の準備で、2人しか居ないメイドの私たちは大わらわだった。お肌の手入れに、つめの手入れ、髪のセットにドレスの着付けとアクセサリーの選定。
「忙しいぃ~!約束と違う!給与上乗せしてもらうよ!」
ロザリーがお継母様に食ってかかっていた。
ブラシをマリゼラの顔の横でブラブラさせながらお継母様を睨んでいる。
「分かりましたわ、これでよろしいかしら?」
金貨5枚(5万円相当)をロザリーに渡す、ロザリーは にやっと笑うと鼻歌を歌いながらマリゼラのの髪型を整えていった。
私にはセットする技量が無いと思われていたので、もっぱらドレスの手入れをしていた。
夕方、3人はいそいそと馬車に乗り王宮に出かけて行った。
「あ-終わった~・・・・でも、あの2人って派手な衣装着せても地味よね・・・ははは!全然似合ってないし、趣味悪っ、絶対に王子様になんて選ばれないわよ、メイド服のあんたの方がよっぽど可能性ありそう」
「はは・・・疲れたわね、お茶でも入れる?」
「要らない、私これから街に繰り出すわ!せっかく軍資金いただいたしね、金持ちの男居ないかなぁ~西町は貴族区域で治安いいから女一人でも安全だし、行ってくるわっ」
「そ・・・そう・・・行ってらっしゃい」
「あんたも行く?」
「ううん・・・遠慮しとく」
「そう・・・じゃ」
メイド服のポケットに忍ばせておいた自作の睡眠薬をぎゅっと握った。
さっと着替えるとロザリーは12時には帰ると言って出かけて行った。
「さてと・・・まさか街に繰り出すとは思わなかったわ・・・使わなかったな」
睡眠薬を見つめてため息をついた。
「さてと、舞踏会っ」
私は玄関に向かいながら魔法を放っていく。黒いメイド服がきれいな青いプリンセスラインのドレスに変わる。髪を魔法で編み込みハーフアップにしてダイヤの髪飾りとネックレスを飾る。うっすらと化粧を施し白いレースの手袋をはめる。
「お母様の髪飾り、似合ってるかしら・・・ガラスの靴はさすがに歩けないってね!その代わりのクリスタルをちりばめた靴、ガラスの靴っぽい?頑張って魔法使わずお母様の靴をリメイクしたんだもの、絶対落とさないようにしよう私にシンデレラストーリーは必要ない!もうすぐ貴族じゃなくなるし!」
ダイヤのアクセサリーは、当主しか入れない宝物庫から持ち出してきたものだ。当主しか入れないからお継母様はこの宝石のことは知らない。
玄関脇の大きな鏡に、映る別人の私、折檻の痕は魔法で見えなくしているから、シミ一つない美しい肌がそこにあった。
「我ながら完璧ね・・・だれもこれが「灰かぶり」だなんて分からないわね」
玄関の扉を開けるとそこには、2頭の白い馬がつながっている貴族の馬車が止まっていた、御者もいる。。
「小さい荷馬車を偽装したの上手くいってるわね、馬と御者は魔法で作った人形だけど・・・ま、大丈夫でしょう」
馬車を動かすのは私の魔法、馬と御者も私が「マリオネットの魔法」で動かしてる。
ゆっくりと馬車に乗り込むと王宮に向けて出発した。
王宮ではもう舞踏会が始まろうとしていた。
「フィレンバレット王国国王エゼウルフ様、后妃エウザラード様、第一王子ロバート様、第二王子フェルディナンド様、おなーりー」
会場のざわつきが収まりシーンとした、会場のすべての人が項垂れ王族一家を出迎える。
王様は41歳がっちりとした体形の美丈夫、20年前の戦争のときは先頭を駆け巡って敵を蹴散らせていた脳筋王である。
后妃は38歳3人の子持ちとは思えないほどのスタイル抜群の美女、才女で王の公務を助けている。
第一王子ロバートは19歳、剣の腕も高く、貴族の学園では常に首位だった才媛でもある、婚約者は公爵家の長女。
第二王子フェルディナンド17歳、先日まで隣国に留学中だった。運命の人を探すロマチストで剣と魔法に長けた人物だ。
第一王女18歳は隣国の王太子に嫁いでいる
「今宵はフェルディナンド帰還の祝いでもある、皆楽しんでくれ」
そう王が告げると音楽が始まった。
始めに第一王子ロバート殿下が躍ると踊りの輪は広がって行った。
ようやく王宮についたファティマはゆっくりと御者の手をとり降り立った。
招待状を護衛騎士に渡すと、騎士は少し不思議な顔をしたが難なく会場に通してもらえた。
騎士が不思議な顔をした理由は分かっている。
【ボーネット伯爵家当主】と招待状の表面には書かれていない隠れ表記のせいだった。そう、お継母様が気が付いてない肩書があったからだった。
普通の令嬢の招待状は
【ブラウン男爵令嬢】と書かれているはずなのだ。
それと保護者が付き添っていないのもあった。
会場の扉がゆっくりと開けられる
(名前呼ばれなくてよかった、呼ばれたらどうしようかと思った)
会場に入ると皆一斉にこちらを見た
(うわっ・・遅れてきたから注目あびちゃった、やばいばれるかな?お継母様たちに・・・あっいた)
会場を見回すとお母様たちが見えた・・・それといかにも王子様!っ感じのハンサムな煌びやかな男性
(すっごいハンサム!さすがね・・・王族だよね・・・こっち見てる・・・ど・・・どうしよう、こっち来る)
(顔が引きつりそう・・・作り笑い慣れてないのに・・・)
「どちらのご令嬢でしょうか?私と踊っていただけますか?」
そして手を差し出された
「はっ・・はい喜んで」
(心臓が壊れそう・・・なんなのよこの破壊的な笑みは!だめよ・・・私は庶民になるんだから・・・これはひと時の夢なんだから、夢にするんだから)
そう自分に言い聞かせているがドキドキが止まらない
音楽が鳴り響く中、なぜか会場に踊っているのは2人だけ
「名前をうかがってもよろしいですか?」
踊りながらそう尋ねてくる王子
「えーっと・・・」
「失礼、私は第二王子のフェルディナンドと申します」
「あ・・・の」
質問されたがどうしようか困ってしまった・・・それよりも付け焼刃の踊りを失敗しないか気が気じゃなかった、王子のエスコートは最高で、私のつたない踊りをカバーしてくれていた
周りは私たちをじっと眺めている・・・なぜだ・・・ちょっと怖いと思った。
曲が終わると、息をつくそれにすぐ気が付いて王子が
「バルコニーで一息つきませんか?」
「あっ・・・はい」
王子は給仕に飲み物と軽く食べれるものを頼んで私の手を引く。
バルコニーにはソファがいくつか置いてあり、端の方に2人なぜか並んで座った。
二人きりというわけではなく、護衛らしき人が囲むようにして少し離れて立っていた。
「フルーツジュースにしましたが、カクテルか何かの方がよかったですか?」
「いえ、お酒は飲めないのでありがとうございます」
「どちらのご令嬢かお聞きしてもよろしいですか?」
「いえ、王子様に気にかけていただくような身分では無いので」
「・・・お名前だけでも」
(うー困った、雑談を交えながら、何度が名前と爵位を聞かれた~どうにかごまかしているが・・・不敬にならなければいいけど)
「田舎ですか?どんなところですか?」
「緑豊かな所です、空気もおいしくて地鶏は名産なんですよ」
「領民の暮らしはどうです?」
「裕福ではないですが、領主が事業をしているので税金はそれほど高くしなくても国に治める税を確保できております」
「いい領主なんですね」
「そうですね・・・領主としてはそうなんでしょうね」
「?・・・領主としては?」
「いえなんでもありません」
それから留学の話や、兄弟の話、王様の武勇伝なども聞いて、なんだか楽しい時間を過ごせた。
時間を気にしていなかった私が悪かった。
<ズクン>
と頭痛がしてきた。
(やばい・・・魔力切れ)
いきなり立ち上がって
「殿下、楽しい時間をありがとうございました。私これで失礼させていただきます」
私は言うが否や一目散に走りだした。
「あっ待って」
王子の焦った声がする・・でも止まるわけにはいかない、魔力が切れるとドレスはメイド服に変わる。馬車は荷馬車に戻るし、馬を動かせなくなると屋敷に帰れない。
(やばいやばいやばい)
王城の長い階段、足がもつれる。
「あっ・・・」
靴が片方脱げた・・・。
「くそっまじか・・・取りに戻ってたらやばい・・えーい諦めだ」
そのまま馬車に駆け込んで走り出す。。
後ろから
「その馬車を止めてくれ!」
と王子がさけぶが、魔法で動かしている馬車は騎士の間をすり抜けて街道を駆け抜けていった。
王子が私の脱げたくつを、大事そうに抱きしめていたことなど知るよしも無かった。
12時前、どうにか屋敷につくと荷馬車から、メイド服の私は下りた。
馬と御者を消して納屋に荷馬車をしまって屋敷に入る。
ロザリーはまだ帰っていなかった
1時頃ロザリーがかえって来ると、しばらくして3人が帰ってきた。
3人は興奮していた。
「凄いお姫様が来たのよ。王子様メロメロだったわ。私より少し美人だったから王子に見初められても仕方がないわね」
そうマリぜラが言うと
お継母様は苦虫をつぶしたような悔しそうな顔をしていた。
(気が付かれてない?よかった)
「ん?酒臭い・・・灰かぶり?違うわね・・・ロザリー!?」
「ん?そっちは楽しんで来てるんだがらお酒くらいでくどくど言わないでよ」
お継母様は訝しげな顔をしていたが、疲れたのか3人共湯あみもせずに寝所に入っていった。
「灰かぶり・・・高級な香水の匂いが少しするわよ、シャワーしたら?」
「え?・・・・」
にやにやとこちらを見るロザリーだった。
まさかね・・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます