第31話 裏目に好かれる人生
翌日。
ディミトリは祖母に具合が悪いので、病院に寄ってから学校に行くと伝えた。
心配して付いてくると言い張る彼女を説得して、一人で出掛けたディミトリは家電量販店に居た。
ここで小道具の材料を調達するためだ。今回はどう考えても罠にハマりに行くのだ。下準備無しで乗り込むほど自信家では無い。
彼が購入したのはレーザーポインターだ。それと玩具のリモコンも購入した。このリモコンでスイッチを操作するのだ。
レーザーポインターは名前の通りレーザーの強烈な光でポイントを示す物だ。普通に使えば便利な道具だが、カメラにとっては脅威となる代物だ。
レーザーポインターをカメラのレンズに向けて照射する。すると、カメラの中にある電子素子(LCD)は強烈な光で飽和してしまう。つまり、映像をまともに作れなくなってしまうのだ。
これは空き巣や銀行強盗などの時に、防犯カメラを無効にさせる為に使われる手口だ。本格的なやつは赤外線レーザーを使う。カメラに付いている電子素子(LCD)が早く飽和するからだ。
目的のものを入手したディミトリは、そのまま例の廃工場に向かった。前日に開けておいた裏口を通り、カメラが設置されている場所までやって来た。
そして、床に積もった埃に異常が無いのを確かめると、今度はカメラがレーザーポインターで狙い易い位置にやってくる。そこには埃だらけの元資材が積み上げられていた。
手のひらに入る程度のレーザーポインターなので隠すのは簡単だった。
(よし、仕掛けは出来た……)
ディミトリはレーザーポインターをダンボールの影に隠して学校へと向かった。どうせ使い捨てなので見てくれは気にしていない。
道具は役に立ってこそ意味があるとディミトリは考えていた。
午後から登校したディミトリは何事もなく過ごした。そして、下校時間になると大串の方から声を掛けられた。
大串は時間をずらされて焦っているようだ。そして、ディミトリが受け渡し場所に下見に行った事には気が付いてないようだった。
「今日はちゃんと来いよ」
「ああ、今夜は何時頃行けば良いんだ?」
「夜の七時に俺の家に来てくれれば田口の兄ちゃんが車で送ってくれるってよ」
田口というのは子分の一人だ。クラスメートなのだがディミトリは初めて名前を聞いた気がしていた。
「そうか、分かった……」
ディミトリは素っ気無く返事をした。
校門で大串たちと分かれたディミトリは足取りも軽く家路に就いた。心に余裕が出来たのからだ。
拳銃とナイフを一つづつ持っていけば楽勝に思えてきたからだ。
(よしっ、下準備は上手く出来てるし、連中の思惑もある程度は判明してる…… 今夜は楽勝だな)
そんな事を考えながら、意気揚々と自宅に帰宅してきたディミトリ。
自分の部屋に入った瞬間に立ち止まった。
「……」
部屋に入った瞬間に妙な違和感を覚えたのだ。
(え?)
何かがおかしい。ディミトリの本能が異変を告げている。
「……」
見慣れた光景のはずが何かが違う。そんな感覚だった。
「あっ、無いっ!」
とうとう、何がおかしいのかに気がついた。
「エアガンの空箱が無いっ!」
ディミトリは収奪した火器をエアガンの空き箱にバラして仕舞っておいたのだ。
空き箱は同じクラスのミリオタに頼んで譲ってもらっていた。
最初は面食らって居たが、同じクラスの者がエアガンを持っている『本物だが……』と知って嬉しかったらしい。喜んで譲ってくれた。
空き箱に隠したのは万が一見つかっても、エアガンの部品であると言い逃れが出来る様にと考えていたのだ。
「無いっ!!」
その肝心の空き箱が無くなっている。結構な量が合ったはずだ。
「無いっ!!!」
部屋中を思いっきりひっくり返すような勢いで探し始めた。
「タダヤスちゃん…… そんなに騒いでどうしたの?」
ディミトリがドタバタ騒ぐので祖母が心配になったらしい。様子を伺いに部屋へやってきた。
「お婆ちゃん…… 玩具の銃が入っていた空き箱知らない?」
「ああ、アレなら燃えないゴミの日に出して置いたわよ~」
祖母はニコニコしながら答えてきた。
何しろ男子中学生の部屋は驚くほど汚いものだ。本人としては片付いているつもりなので始末が悪い。
そこで、彼女は散らかりがちな孫の部屋を掃除してくれたのだ。
「え?」
結構、重かったはずなのだが、彼女は一人でゴミに出してしまったらしい。
ディミトリは走ってゴミ集積場に向かった。集積場と言っても隣の家との境目に設けられているものだ。
もちろん、そこにはエアガンの空箱は影も形も無かった。
ゴミ収集車はとっくに集荷を終えている。遅延などと言う言葉を彼らは知らない。
日本人は決まり事を厳守する国民であるのだ。それはDNAに刻み込まれているらしいと噂で聞いた。
ディミトリはサブマシンガンやハンドガンなどの火器を捨てられてしまっていた。
「ああ……」
うっかり開けられないように『空き箱』と書いておいた。それでゴミだと判断したのであろう。
慎重さが裏目に出てしまったようだ。
「ああ……」
祖母は悪気があった訳ではない。それは分かっている。分かっているだけにディミトリの怒りは行き先を失ってしまっている。
折角、手に入れた武器が無くなってしまったのだ。
「ああああぁぁぁぁ…………」
いつものように裏目を引いてしまったディミトリは、ごみ集積所の前で佇んでしまっていた。
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