やはり、タラシですね……

 


「タモン様は、やはり、タラシですね」


 大神殿への道々、未悠が言うと、

「お前の父親だろ」

と堂端が言う。


「しかしあれだな」

とリチャードが笑って口を挟んできた。


「さっきの話によると、あの老婆が魔王を倒した女ということになるわけだな」


 いや、倒したときにはまだ魔王に格上げされてなくて、悪魔でしたよ。


 っていうか、刺しただけで倒してませんし、と思う未悠の側で、駿が言った。


「俺が倒したかったのに……魔王。


 意気揚々とRPGを始めたのに、苦労して魔王の城に行ったら、その辺の老婆に魔王はやられてましたみたいな感じだ」


 いや、貴方、なにも苦労してないうえに、魔王、今、貴方の横で、シシカバブみたいな屋台の料理買ってヤンと食べてますけど。


 父親だと知ったせいでもないだろうが、もう倒す気は失せてしまったようだった。


「始める前にエンディングを迎えてしまった。

 帰って仕事しようかな」


「いやいや、お兄様。

 せっかく此処まで来たのですから、母親が誰なのかもついでに知って帰りましょうよ」

と未悠が言うと、


「誰がお兄様だ。


 そうだ。

 まだわからない。


 お前と本当に兄妹かどうか、大神殿に行って、話を聞いてみよう」

と駿は言い出す。


 いやあの、母親が誰だろうと、片親が同じなだけで、兄妹であることは確定だと思うのですが……。


「いざとなったら、俺と未悠の出生の秘密を知る大神殿の連中をすべて始末してしまえばいい」


 それ、今、此処で聞いてる連中も殺さないと、意味ないですよね~。


 しかし、社長があっさりこの世界に馴染んだ謎は解けたな、と未悠は思っていた。


 自分はまだ小さかったから、こちらの世界で体験したことが少なく、なにも覚えてはいなかったのだが。


 駿はこちらで学んだことを年齢的に少しは覚えていたのだろう。


 だから、社長は、ギフトカタログで乗馬習いに行っていないのに、馬に乗れたのではなかろうか、と未悠は思う。




 それからも未悠たちは旅を続けた。


 途中で、親子喧嘩で城を叩き出されたアドルフが合流したり。


 タモンが魔王から大魔王になったり。


 その称号を駿に取られたりしながら。


 そして、その大魔王の称号をアドルフが奪い、また、駿に取り返されたところで、大神殿に着いていた。


「いや~、濃い二週間でしたね~」


「まったくだ」

と言うアドルフとの会話のあと、未悠は馬を降りた。


 神殿の参道に入る前に、馬は繋ぐことになっているからだ。


 これ以上は歩いてしか入れないことになっている。


「パルテノン神殿みたいな感じですね」


 砂漠の中に突然、真っ白な石柱の並ぶ神殿が現れた。


 町から伸びた白い道にはわずかに草も生えているが、神殿の周りにはなにもない。


 ただ、走ると足を取られそうな砂が周囲を取り囲んでいる。


「まるで、砂で守られた要塞だな」

とアドルフのお付きとして、合流していたシリオが神殿を見上げて呟く。


 神殿に続く道から外れると、さらさらした砂に飲み込まれそうな怖さがあった。


 神殿の石柱が太陽の光を浴びて、白く輝くのを見上げながら未悠は言った。


「そういえば、パルテノン神殿はもともとは極彩色だったのがハゲて、白くなったみたいなんですけど。

 此処はどうなんでしょうね」


「此処は私が居た頃から白かったぞ」

とタモンが言う。


「そうなのですか?」

と振り返った未悠に、タモンは、


「神殿の巫女とよく会っていたこともあるから、間違いない」

と言い出した。


「……待ってください。

 巫女さんにまで手を出していたのですか?」


「違う。

 向こうが城に住む悪魔を成敗しようとしてやってきたのだ」





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