未悠……、いいのか?


 感動の(?)再会のあと、


「未悠、私もお前とともに行くぞ」


 そんなことを言い出すアドルフに、未悠は、ええーっ、と声を上げる。


「城はどうするんですか?」


「母上が居てくれるそうだ」


「……いいんですか? 王子」


 もう王子だとバレているのでいいだろうと思い、未悠はそう訊いた。


「よいのだ。

 母上に、もうお前とは親でも子でもないと言われたから」


「ほんとにそんなこと言われました?」


 未悠は何処か熱にうかされたように言ってくる王子の瞳を見つめ、訊いてみた。


「もうお前と王は親でも子でもないから、何処へなりと行けと言われたんだ」


 そう言うアドルフに、

「……えーと。

 いいんですか? それ」

と未悠は訊き返す。






 数分前、アドルフは未悠たちの居る宿の前に居た。


 此処だ……と何処にでもあるような小さなその宿を見上げる。


 密かに未悠をつけさせていた者から、未悠が今、何処に居るのか、報告は受けていた。


 未悠。

 一日でこんなところまで来ているなんて。


 どれほど苦労したことだろう。


 辛い目にあったりしなかっただろうか。


 ……なんか店の中からいい匂いがしているが。


「未悠っ」

とアドルフは玄関扉を跳ね開けた。


 すると、中には、柱に縛り付けられた屈強な男たちと、数人の若い男が居た。


 そして、未悠がこちらに気づき、椅子から立ち上がるのが見えた。


 ああ、未悠。


 半日も会わなかったので、恋しさがつのり……


 というか、前回、消えたとき、長く会えなかったので、そのトラウマで、長く会えなかったような気持ちになって、恋しさがつのり、未悠がいつもよりも美しく輝いて見えた。


 まあ、ただ、美味しいものを食べて、酒をかっくらっていたので、血色が良かっただけかもしれないが。


 しかし、未悠の周囲の謎の男たちが気になり、

「どうしたっ」

と思わず、叫んでしまう。


 なんか肩を虎に喰われてる奴は居るし、柱に縛り付けられているスキンヘッドの男は居るし、眼光鋭い巻き毛の男は居るし。


 ……なんかしょぼい感じの男たちも居るし。


 それにしても、全員ガタイがいいが、未悠はこいつらになにかされなかっただろうか。


 紅一点だし、と思うアドルフの目には、まったく未悠以外の女は見えてはいなかった。


 恋は盲目とはまさにこのことだ。


 なにがどうしたなんですかとでも言いたげな顔で近づいてきた未悠をアドルフは、ぎゅっと抱きしめた。


「大丈夫か、未悠っ。

 こんなにやせ細って」


 普段は照れて出来ないことが、今なら出来る。


「未悠、私もお前とともに行くぞ」

と言うと、未悠は、ええーっ、と声を上げる。


「城はどうするんですか?」


 なんだ、その冷静さ。


 久しぶりに会えたというのに、未悠は嬉しくないのだろうか。


 まさか、もう心変わりしたとかっ?

と周囲の男たちを見回す。


 とりあえず、手近なところに座っていた金髪碧眼の男前に訊いてみた。


「お前は何者だ」


 未悠のなんなのだ?

と思い訊くと、テーブルに頬杖をついた男は、ちょっとめんどくさそうに、


「勇者だ」

と言い出す。


「ちょっとちょっと坊ちゃんっ」

と両横の男たちが言うと、その金髪の男は、


「いや、こいつ、王子なんだろ?

 なんか負けた気がするから。


 勇者だと王子にも張り合える気がするじゃないか」

と言っていた。


「なに言ってんですか」

と未悠が苦笑する。


 ああ、未悠よ。

 何故、お前はこの男とそんな打ち解けた感じに口をきいているのだっ。


 まさか、もうこの男に気を移したから、私が一緒に旅に出ようと言っても、拒絶してくるのか?


 未悠っ。

 何故、私より、この男がいいっ。


 勇者だからかっ。


 アドルフは未悠の手をがっしと握って言った。


「未悠よ。

 お前が王子より勇者が良いというのなら、私は札ビラはたいて、伝説の剣を買い、仲間を雇って、勇者となろう」


「……おい、未悠。

 こんな錯乱した王子でいいのか」

と虎に喰いつかれている男が言い、その横に立っている巻き毛の男が、


「リコ、恋というのは、人を錯乱させるものらしいぞ。

 私は錯乱したことはないので、よくわからないが――」

他人事ひとごとのように呟いていた。


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