この息子、ウゼーッ!


 あれから、小一時間、アドルフはまだ、ユーリアにぐたぐだ言っていた。


「アドルフ、未悠はちょっとやそっとで、どうにかなるような女ではないし。

 付いているのが、ヤンなら、ヤンに心を移すこともないでしょう」

と聞いているのも疲れたので、ユーリアはそんな失礼なことを口に出して言ってしまう。


 未悠の世界の言葉で言うなら、

『この息子、ウゼーッ!』

 ――というところだ。


 様々な事情があって、ベタベタした親子関係ではなかったが、別に嫌い合ってはいなかったのだが。


 今はこの息子を遠ざけたい気持ちだ……と思いながら。


 この力を使ってなにか発電できないだろうか、と思ってしまう勢いで室内を歩き回る息子を見ていた。


 恋の始まりというのは、人から正気を失わせるもののようだ、とその息子の様子に思う。


 王とは子どもの頃からの付き合いなので。


 なんとなく、タモンと初めて出会った、というか、寝ている彼を初めて見たときのことを思い出す。


 絵物語の中の王子様かとあのときは思ったが。


 いつまでもそのままで変わらないでいて欲しいと思う反面。


 変わらなさすぎだろう、こっちはどんどん老いていっているのに、という不満もあった。


 エリザベートのように、この小僧が、という感じで見下ろせる域には、まだ達してはいないが。


 そのとき、足を止めたアドルフがこちらを振り向き、舞台役者のようにオーバーな仕草で言ってきた。


「わからないではないですかっ。

 世の中には、ああいう可愛らしいタイプが好きという人間も居る!」


「でも、未悠はお前を好きなのでしょう?

 ならば、ヤンは未悠の好みではないでしょう」

と言いながらも、もうかなりイラついて来ていた。


 しまいには、

「お前はどれだけ自分に自信がないのっ」

と怒って立ち上がる。


「そんなに美しい顔に産んでやったのにっ」

とキレると、


「未悠と兄妹かもと言われてどんな自信を持てというのですか。

 しかも、その話っ、貴女が言い出したんですよっ」

と詰め寄られ、そういえば、そうだったな、とようやく思い出していた。


 息子のあまりのウザさにすべてを忘れるところだった。


 王への不信感までも――。


 そもそも、我々親子のためもあって、旅立ってくれたんだったな……とユーリアが思い出していた頃、未悠たちは最初の町に到着していた。





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