大きな桃がドンブラコー ドンブラコ



「どういう人だったって……

 そうですね。

 とりあえず、顔はアドルフ様、そっくりでしたよ」


 城の廊下の真ん中でこんな話するのもどうなんだ、と思いながらも未悠は話していた。


「でも、アドルフ様の方がちょっと若いのか、若造って感じの顔ですけど」


 さっきのエリザベートの言葉が頭に残っていて、うっかりそう言ってしまう。


 す、すみません、と苦笑いした。


 腕を組み、目を閉じたアドルフは渋い顔をしている。


「でも、実は歳は同じくらいなのかもしれませんね。

 社長は苦労してるみたいなので、人生経験の差が顔に出てるのかも。


 あっ、すみません」


「……お前、すみませんというたび、ドツボにはまってってる気がするが」


 そうアドルフではなく、シリオが文句を言ってきた。


 未悠は、いや、すみません、とまた言いそうになり、苦笑いして誤魔化す。





 腕を組み、目を閉じて話を聞きながら、アドルフは思っていた。


 なんという恐ろしい話を振るんだ、シリオ……。


 ずっと避けてきた話題だった。


 自分がこだわらないのなら、既にどうでもいい感じもするおのれの出生の秘密などより、余程怖い。


 腕を組んでいるのも、目を閉じているのも、斜に構えているからではない。


 腕を組んでいるのは自衛。

 目を閉じているのは外界からの刺激の遮断。


 できるだけ、衝撃を受けないようにしていた。


 ……今、若造と言われてしまったしな。


 どんな話を聞いても、ビビらず、どっしり構えたところを見せなければ、と思っていた。


 だが――


「私が社長と出会ったのは――」


 ムカシ、ムカシ、アルトコロニ


「会社の面接を受けたときなんですけど」


 オジイサント オバアサンガ


「うわ、すごい男前だけど、癇にさわる感じの人がいるっ、と思ったのが、うちの社長だったんです」


 鬼退治ニ 行キマシター。


 どうしたことだ。

 未悠の告白を聞いていると、子どもの頃、眠る前に乳母から聞いた話が一緒に聞こえてくるんだが……。


 現実逃避か?


「お前、それ、ほんとに好きだったのか?」

とシリオが言い、


「いやー、わかりませんけど。

 でも、ともかく、気になる顔だったんですよ」

と未悠が答えていた。


 オジイサント オバアサンハ


 鬼カラ 奪ッタ 宝物ヲ 持チ帰リ


「それで、その社長とはなにかあったのか」


 鬼ヲ桃ニ埋メテ


「言ったじゃないですか」


 ドンブラコー


  ドンブラコ


 ドンブラコー


  ドンブラコ


 鬼が長く、一級河川をくだっているところで、


「王子、聞いてます?」

と未悠が言ってきた。


「……聞いてるぞ」


 そう言いながら、いや、聞いてはいない、とアドルフは思っていた。


 未悠の話を聞いていると、それが脳に入ってくるのを防ぐように、勝手に乳母の故郷の話とかいう昔話が頭の中で再生される。


 そして、特に聞きにたくないところに差し掛かると、話が破綻していくのだ。


 都でお姫様に出会った鬼が、打ち出の小槌で大きくしてもらい。


 実は自分を育てだおじいさんとおばあさんこそが、かつて、自分を退治し、宝物を奪った人物だったと気づいて、おじいさんに向かい、剣を構えたところで、シリオが、


「そんなの好きなうちに入るか。

 っていうか、それ、フラれて当然だぞっ」

と叫んだので、正気に返った。


「いやいやいや。

 それに、社長。

 取引先の娘さんと結婚するって言い出したんですよーっ」


「俺でも言うわっ、莫迦者っ」

と二人が揉め始めたので、どんな話だか気になったのだが、聞いていると言った手前、今の話、なんでしたっけ? とは訊き返せない。


 ヤンまでが、

「それは未悠様が悪いと思います。

 男は不安になりますよ」

と未悠に意見していて、余計に気になったのだが。


 男たちの主張に追い詰められ、動揺した未悠が、

「そんなことないですよ。

 ねえ、王子」

と助けを求めるように腕をつかんできたのだが、話の前後がわからないので、なんと答えていいのかわからない。


「……そうだな」

とうっかりな返事をしてしまい、胡散臭そうにこちらを見たシリオが、


「ほんとですか? 王子。

 じゃあ、王子は式が終わるまで、未悠には手を出さないでくださいよ」

と言い出した。


 ……待て。

 今のはなんの話だったんだ? と思ったが、シリオが、


「ほら、お前の社長と顔が同じでも、王子は人間としての器が違うのだ。

 そんな俗物的な男のことは忘れて、王子と結婚してしまえ」

と話をまとめ始めた。


 えー、と言いながらも、未悠がチラと窺うようにこちらを見る。


 結論的には悪くない。


 悪くはないが、シリオよ。



 ……俺は俗物だ。





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