見つめるだけでいい③
成長途中の中学一年生。同級生の中では背が高いほうでも、三年生と比べればまだ小柄だ。
最初は驚いたヤンキーたちだったが、今は取り巻きがいないことに気づくと、とたんに安堵した表情へと変わった。
「なんだよ、今日は取り巻きを連れていないのか?」
あたりを油断なく見回しながら、茶髪の少年が言った。
「その人から離れたら?」
問には答えず、健は淡々とした口調で告げる。
「どうして? この子は私たちのお友達なんだから。ねえ?」
赤い口紅の少女が、真緒の肩に腕を回した。安っぽい香水の匂いで、真緒は酔いそうになる。しかし怯え切っているから、されるがままだ。
「友達はかつあげしないだろ」
健の言葉に、太めの少年が答える。
「じゃあ、代わりにお金を貸してくれよ。ノートを買いたいんだからさ。今持っていないなら、いつもの取り巻きに泣きついてみればいいんじゃね?」
三人とも健の実家のことは知っているようだが、この太めの男は健よりも一まわりも身体が大きいためか、気持ちまで大きくなっていた。ほかの二人が焦ったように目くばせをしたが、ビックマウスは止まらない。
「ほら、金を貸してくれって。どうせ町内のあちこちから巻き上げた金で生活してんだろ?」
その言葉に、健が初めて反応した。涼し気な目元に影が降り、凄みが増す。
「じゃあ、力づくで取ってみろよ。ここにちょうど一万円が入っている財布がある」
健は制服のポケットから財布を取り出し、顔の横で振ってみせた。
「え? いいのか?」
勢いづいた太めが近づこうとすると、赤い口紅がその腕を抑えた。
「ちょ……。あとで面倒なことになるかもよ」
すると健は口の端を上げた。笑顔の形ではあるが、ひどく冷たい表情に見える。
「別に、言いつけやしないよ。万が一俺が負けたとしても、報復なんてしない。約束する。それとも一万円は欲しくないの?」
「欲しいに決まってんだろ」
太めが健へと突進した。
肉付きの良い手が財布に届きそうになったとき、健は身軽に避ける。勢い余って走り抜けた男は、怒りの形相で振り返った。
今度は財布ではなく健の胸倉をつかもうとしたが、またもやするりとかわされた。
完全に頭に血が上った少年は、顔を真っ赤に染めて殴りかかる。その腕を健が軽くつかんだかと思うと、少年は勢いよく地面に転がっていた。
「……なにやってんだよ」
呆れた声で赤い口紅が言っているが、太めは何が起きたのか分からないといった様子で、仰向けに転がったまま呆然と空を見上げている。
そのとき
「ぼっちゃーん!」
と叫びながら、強面の男二人が走ってきた。
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