第2-1話

「それにしても物々しいな」


 タラップを上がりながら、あきらはつぶやいた。


 少し離れた海上で、監視艇『つくばね』と『はまかぜ』が警戒しているのが見える。


「船の調査は警察がするの?」


 あきらの前を行く一姫が口を開いた。


「今回は横浜税関職員が行うみたいですね」


 みつるが顔だけ振り返り、一姫に答えた。


「税関って、大丈夫なの?」


 船の中へと入っていく税関職員達を心配そうに見ている。


「今回は特別に拳銃の携帯許可が下りたみたいだぞ」


 あきらは職員から直接聞いたことを教えた。


「法的には問題ないらしいが、普段は携帯してないから不慣れという不安はあるな」


「海上保安庁の姿が見えませんね」


 税関の船を見ながらみつるが呟いた。


「巡視船の『しきね』がこちらに向かっているらしいが、遅れていると言ってたぞ」


 やはり税関の職員から聞いたことを伝える。


 三人は職員達に続いて船内部に入った。


 何本ものパイプが天井を埋め尽くしている細い通路を進み、操舵室へと向かう。


 途中、船員の寝室らしい部屋を見ながら、さらに奥へと進むと、見慣れない大型の機械が幾つも置かれた巨大な船室が現れた。


「どうやら事前に入手していた船の構造図と、大分違うようですね」


 税関職員達が戸惑っている様子を見て、みつるが言う。


 縦に長いその部屋の中央付近まで進む。


 機械が林立しているので視界は狭く、人が通れるスペースも限られている。


 一つの部屋がパーティションによって、細かいブロックに区切られているイメージに近い。


 一つ先のブロックで税関の職員達が集まり、話し合いをしている。


 あきら達三人はブロックとブロックを結ぶ、機械に挟まれた通路のような場所で、今後の方針が決まるのを待った。


「なんだ?」


 無線で本部とやり取りをしていた職員が、頭上に腕をかかげて大きく×印を出した。


「中止みたいね」


 一姫が言うのと同時に、乾いた音が響いた。


 あきらは咄嗟とっさに一姫の頭を掴むと、大型の機械の陰に身を隠すように姿勢を低くした。


 そのまま物陰から少しだけ顔を出して辺りをうかがう。


 反響しているのか、どこから音がしたのか方向が分からない。


 すぐ前にいた、みつるの姿が見えないのが気になった。


「痛い痛い」


「う、撃たれたのか」


 一姫の声に、血が凍りつく。


 あきらは慌てて振り返った。


「手を退けて!」


 頭を押さえつけられ、床にいつくばるような格好で一姫がうらめしそうに見上げていた。

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