第7-2話

 言葉の意味を理解するまでに少し時間がかかった。


 沈黙が続く。


 質問を変えてもう一度確認したかったが、遅かったようだ。


「呼ばれています。行きましょう」


 そう言ってみつるは歩き出した。


 見ると一姫が大きな動作で手招きしている。


 その横で竹箒たけぼうきを抱えた巫女が笑っている。


 あきらは仕方なく手を振り返し、みつるの後に続いた。


 三人は巫女に案内されてやしろの中へと入り、茶室のような畳の部屋へと通された。ローテーブルの周りに座布団が四つ置かれている。


 床の間の前以外の場所に各々座る。


 宇治土が来ることを告げると、巫女は部屋を出て行った。


 窓には障子があり外は見えない。下の部分だけ開けることができる雪見障子のようだ。


 床の間には掛け軸が下がっている。


 なんて読むのだろうか。達筆というのか、崩れすぎているというのか、とても日本語には見えない。


「間に合いましたね」


「ぎりぎりね」


 みつると一姫の会話を聞きながら、あきらは携帯ガラケーを開いて時刻を確認した。


 船の調査開始までもう二十分もない。


 ここから移動する時間を考えるとすぐに出ないとまずいだろう。


「圏外なんだな」


 あきらは画面を見てつぶやいた。


 これだけの規模のビルなら地下でも電波が入りそうなものだが。


「神社だからね」


 一姫が微笑む。


「いや、意味が分からんし」


「そんなことより、莫耶なんでしょ?」


 一姫はテーブルに手を着くと、あきらの方に身を乗り出して尋ねた。


「な、なにが?」


「みつるさんが言っていたじゃない。でもなんで?」


「さ、さあ……」


 恐ろしい。聞こえていたのだろうか。


 思わずみつるの顔を見る。


 一姫も同じ姿勢のまま顔だけ動かしてみつるを見ている。


「エネルギー研究所が設立された目的はなんだと思いますか?」


「たしか……、温暖化の主原因となっている化石燃料に代わるクリーンな次世代エネルギーの開発。じゃなかったか?」


 パンフレットかなにかで読んだ覚えがある。


 その文章を思い出しながら、あきらは答えた。


「表向きはそうですね」


「ち、違うのか?」


「知らないで仕事しているの?」


 一姫はあきれたという顔であきらを見ると、力が抜けたように座布団に座り直した。

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