第4-6話

「修さん達が心配ですが、ここからでは無理です。急いで地上に出ましょう」


 あきらにそううながして、みつるはエレベータの中に入った。


「大丈夫か。これ?」


 不安そうな顔で、あきらも乗り込む。


 扉が閉まる直前、かろうじて点いていた通路の非常灯が消えた。


 おそらくショートしたのだろう。


 エレベータが上昇している間、みつるはうずくまる様に床に座っていた。


 目をつむると、漆黒しっこくの闇が大きな口を開けて待っていた。


 吸い込まれそうになる錯覚さっかくを、頭を振って追い払う。


 みつるが顔を上げると、あきらは操作パネルの前で腕を組んでいた。


 一瞬エレベータの照明がちらつき、わずかに横に揺れた。


 あきらは腕を解き、天井を見上げている。


 すぐにそれが、目的の階に着いた揺れだと気付いた。


 扉が開き二人は外へ出る。


 そのままホールを通り抜け、連絡通路へと戻った。


「水はきていないようだな」


「深い場所だけなのでしょう」


 おだやかだけれど、少しせわしない。


 そんな普段と変わらない光景が目に入った。


 二人はエレベータホールわきの階段を登り、大手町駅B四と書かれた出口から地上に出た。


 場所は丸の内の北側辺りだろうか。


 目の前には広い都道が走っている。


 みつるは歩道と車道の間に設置されたさくの上に腰掛けた。


 頭の奥がひどく痛んだ。


 そろそろあきらのようにリミッターを着けた方が良いかもしれない。


 全身の力が抜け、身体が冷えていくのをみつるは感じていた。


 すぐ横ではあきらが、クマのようにうろうろと動き回りながら、何度も電話をかけ直している。


 道路には変わらず車が走っている。


 しかしどこか騒然とした空気が漂い、ざわめきのような風の中に、サイレンの音が混じり始めた。


「ダメだ。長谷川、安藤、どちらの携帯にもつながらない」


 あきらは苛立いらだちを隠さず、乱暴に携帯を閉じた。


「実験センターにかけても誰も出ないし」


 携帯を内ポケットにしまうと、左のこぶしを握り、右のてのひらを打った。


「水智さんに連絡して下さい」


 自分が思っているよりも消耗しょうもうしているのか、かすれたような弱々しい声しか出ない。


「弓波に?」


 あきらはみつるへと顔を向けた。その表情にはあせりと怒りが見える。


「石を……、探すように伝えて下さい」


「石? それで弓波には通じるんだな」


 あきらはそれ以上訊こうとはしなかった。急いで携帯を取り出している。

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