第2-1話

 出利葉あきらと白館みつるの二人は、上野駅で特急ニューひたちから環状線に乗り換え、東京駅へ到着したところだった。


 ホーム中央の階段を下り、丸の内へと向かう。


「もの凄い混雑だったな。通勤ラッシュよりひどい」


 身動きのとれない状況からやっと解放されたあきらは、両腕を思いきり上げて伸びをした。


「予想以上に混乱しているようですね」


 携帯をジャケットの内ポケットに仕舞い、下を向いたままみつるが答えた。パソコンが壊れていないか確かめている。


 不思議なのは、みつるが手に持っている筒状に丸めた絵が、全くれていないことだ。


 いったいあの混雑の中を、どうやって持っていたのか。


 気になったが改めて訊く程のことでもないように思えたので、あきらは黙っていた。


「あきら。幾つか新しい情報があります」


 あきらはみつるの手元に向けていた視線を上げた。


 特急に乗っている間、みつるは弁当も食べずにパソコンを使ってなにか調べていた。莫耶のサーバに接続して、情報を得たのだろう。


「昨日、研究所に戻るときに巻き込まれた事故ですが、タンクローリーを所有している東洋重化学工業から、盗難届けが出されていました」


「なんだ、盗難車だったのか」


「工場内の駐車場から三台の大型車両が消えていることに気が付いたのが、二日前の深夜一時半頃。定時巡回中の警備員が発見したみたいですね。警報装置は何故か機能しなかったそうです」


「監視カメラは?」


「駐車場の他、敷地出入口などにも設置されているみたいですが、怪しい人影は映っていませんでした」


 そこで一旦口を閉じ、間を空ける。


 みつるが一瞬、微笑んだようにも見えた。


「事故車が無人だったことが気になっていたのですが、簡易な運転補助装置の付いた車だったようです」


「サイドブレーキの引き忘れかと思ったよ」


 冗談めかして答えたが、それだけであんな走り方をするとは思っていなかった。


 エンジンを噴かすような音がしていたのも覚えている。

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