第1-2話

「不思議なのは、反対側の八重洲やえす口に設置されている地震計には、なにも検知されていないことです」


「八重洲口では揺れていないのですか?」


 ここからほんの少ししか離れていないのに。


「おかげで被害は最小限で済んでいるのですが」


 駅員は少し皮肉っぽく答えると、彩に対して笑いかけた。


 その笑みがなにを意味しているのか分からなかったが、暗く深刻な顔をしているよりも、その場の雰囲気をなごませる効果は期待できる。


 必要の有無は別として、小首をかしげながら彩も笑顔を返した。


「……大手町は?」


 今までずっと彩の後ろで黙って聞いていた長谷川修が、初めて口を開いた。


『無用な誤解を防ぐため、主要な莫耶関連施設の周辺を調査する場合は、事前に調査内容を説明する』という規定に従い、修と彩の二人は昨日、大手町にある莫耶生化学実験センターを訪ねていた。


 予想していたことだが、セキュリティ関係の手続きや、お偉方えらがたへの挨拶など、雑多なことに時間を取られて調査まではできていなかった。


「ああ、ええっと……、そちらは東京メガロさんと関東地下鉄さんになりますので、こちらではちょっと判りかねます」


 長谷川がいたことを忘れていたのか、突然の質問に駅員は慌てた様子で答えた。


「……」


「ありがとうございました」


 修がなにも言わないので彩が駅員にお礼を言った。


 二人は駅員と別れると、大手町駅に行くためエスカレーターへと向かった。


 本格的な調査は、一通り状況の確認をした後になる。


「修、どう思った?」


 地下四階から地下一階へと結ぶ長いエスカレーターに乗りながら、頭の中で情報を整理していた彩は、修に考えを訊いてみた。


「KRと東京メガロは仲悪いのか?」


「そんなことはないと思うよ」


 彩は苦笑いしながら答える。会話が終ってしまった。


 修は普段から積極的に話をするタイプではない。


 寡黙かもくな人ではあるが、一緒にいることが多い彩には、それを特に苦に思うことはなかった。


 間が持たないと感じることもないし、無理して話題を探したり、話を合わせたりするよりも気が楽だった。

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