第3章 観察者の存在によって確定するゆらぎ

第1-1話

「ここは地下第四層に位置しまして、久里浜・千東線のホームはさらに一階下になります」


 莫耶エネルギー研究所の調査室員である安藤彩あんどうあや長谷川修はせがわしゅうは、関東鉄道の駅員によって東京駅地下へと案内されていた。


「まだ地下があるのに、この階まで水にかっているのですか?」


 研究所の資料から、東京駅が地下水に悩まされていることを事前に知っていたが、その水の量の多さに彩は改めて驚いた。


「はい。東京駅が地下水で浮上するのをおもりによって防いでいるのですが、結果、東京駅は現在、水の中に沈んだ状態になっています」


「重り……、ですか?」


 原始的な方法によって東京駅が支えられている事を知った彩は、思わず訊き返していた。


「ええ。約六億円かけて、二百キロのアンカーを百三十本程、床から地中に打ち込みました」


「水はみ上げているのですか?」


「ここから、十キロ程離れた品川の立会川に放流しています」


 彩は半ば感心し、半ばあきれながら本題に入ることにした。


「最近、異常な震動が起こっているとお聞きしたのですが」


「はい。地下水が原因なのかどうかは今のところ分かりません。ただ、地下水の問題が発生してから二十年以上経ちますが、このような異常な震動を断続的に検知したことは、過去に一度もないのは確かです」


 今までなかったからといってそれを根拠にすることはできないし、危険なことのように彩には感じられた。


 水量の増加や地盤沈下、施設の老朽化等、考えられる原因はたくさんある。


「こちらがそのデータになるのですが」


 駅員は地震計の前に二人を案内すると、計測器から紙を取り外し、彩に手渡した。


「これだけ大きく左右に針が振れているとなると、揺れもかなり大きいのでしょうね」


 受け取った紙に目を落とし、波形を確かめる。


「ええ、揺れる度に運行を一時中止して点検しています。頻繁ひんぱんに列車を止めるので、遅延や間引きなどが問題になって、苦慮くりょしているところです」


 新宿や渋谷のことを考えれば、遅延などたいしたことでもないように思えたが、彩は口には出さなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る