第7-1話

「みつる。寝てるのか?」


 目を開けると、あきらが隣の席から手を伸ばし、みつるのひざの上に載った弁当をかなり無理がありそうな体勢で押さえつけていた。


「起きていますよ」


 みつるは答えながら、ヘッドマウントディスプレイの位置を直した。


「お、起きているなら、早く弁当を取ってくれ。つ、る……」


 斜めになって今にも落ちそうになっていた弁当を、みつるは持ち上げた。


「食べますか?」


 既に空になっているあきらの弁当を見て訊いた。


「いや、欲しくて手を伸ばしていたわけじゃないから」


 苦笑しながら、あきらは姿勢を戻した。


 あきらとみつるの二人は、石岡駅から特急ニューひたちに乗って上野駅へと向かっていた。車内は空席が目立たない程度に混んでいる。


 あきらの前の座席の背に付いたテーブルを倒すと、みつるは弁当を置いた。


 あきら越しに窓外を見ると、丁度ちょうど土浦駅を通過しているところだった。上野までまだかかりそうだ。


 ポインティングデバイスを操作して、ディスプレイに表示させたリストを一つずつ確認していく。


「いや、だから、みつる聞いてる?」


 最新の情報として、横浜本町公園で起きた事件についてアップされていた。


 斜めに視線を動かしながら一通り目を通す。


 現場に残された犯行の痕跡こんせきが気になった。


「貴方が全力を出したら、鉄を溶かすことはできますか?」


「と、唐突になんだよ。びっくりするなぁ」


 あきらは弁当のふたを開けているところだった。何故か顔が赤い。


「まぁ……、そうだな。これがなければ、できるかもな」


 そでを引っ張り、左手のこうを見せて腕を振る。


 あきらと同等か、それ以上の人間がこの日本にいる。


 そう考えるよりも、他に方法があるとみた方が良いようにみつるには思えた。


「食べちゃうからな」


「どうぞ」


 みつるは次にリストから、タンクローリー事故を選択した。


 目撃証言は思ったよりも少ない。


 車に搭載されていた機器の欄に多くの情報が書かれていた。


 事故直後に撮影された車内の写真を見て、みつるは動きを止めた。


 十一時……?

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