第6-5話

「そだ。これおごってくれたお礼にあげる」


 水智は椅子から飛び降りると、パーカーの腹ポケットに両側から手を突っ込んだ。


 しばらく探り、テーブルの上に石を三個置いた。


「僕が作ったんだよ」


「水晶でしょうか? とても綺麗ですね」


 石を一つつまみ上げ、天井のライトに透かして見る。


 回路のような細い線が金色に光って見えた。


「ありがとうございます」


「人工水晶だけどね」


 腹ポケットにジュースの空き缶を仕舞うと「それじゃ、もう僕はいくから」そう言って水智は、部屋の出入口へと走って行った。


『危ない……』


 あきらの声が遠く聞こえたような気がした。


 水智の背中を見送っていると、部屋と廊下との境界で立ち止まり振り向いた。


「でもね、みつる。僕は本物を見たんだよ」


 笑顔は消え、黒い瞳をかすかに震わせながら大人びた表情を見せた。


 次の瞬間にはくるりと背を向け水智は走り去っていた。


 本物? 彼はなにを……。


「おい、みつる、落ちるぞ」


 あきらの大きな声が響き、みつるを現実の世界へと呼び戻した。

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