100話 わくわくどうぶつふれあいパーク
モンスターハウスだ!
そこは正式名称を『わくわくどうぶつふれあいパーク』といって、様々な生き物と気軽に触れあうことのできる場所だった。
五月の長期休暇のあるうららかな日、俺は家族連れでこの『わくわくどうぶつふれあいパーク』におとずれていた。理由はもちろん動物と触れあうためだ。
俺は嫁と娘にあらかじめ言っておく。
いいか二人とも、この『わくわくどうぶつふれあいパーク』への来園は俺が望んだことだ。だから俺は……俺が好きな動物と触れあう。俺の望みを叶えに来たんだ。
嫁は静かにうなずいて、娘も同じうなずきかたをした。
クソ、似てるじゃねーか。
できれば娘には俺と似ててほしかった……だが、そもそも娘のサラと嫁のミリムは両方獣人種なのだ。人種がどうこうという問題は聞いてるだけで疲労するので取り合わないことにしているのだが、こうなるとさすがに人種の壁を感じてしまう。
今度俺用の獣耳としっぽを用意しよう……心に秘めながら三人分のチケットを買って入園した。
目的のスライムは屋内飼育だが、園の七割をしめる屋外スペースにも実に様々な生き物がいる。
屋外飼育されてる中で人気なのはウサギなどの小動物系と、『乗れる』系の生き物だ。
中でも『ウマトカゲ』の男の子人気がヤバい。まあウマトカゲは『騎乗できる恐竜』って感じの見た目なので、男の子は恐竜好きだよな。
俺は……俺は恐竜にいい思い出がないからやめとくわ(※そもそも大人は騎乗体験できない)。
まあ俺がイヤな思い出を持ってる相手は正しく言えば『恐竜』ではなかった……そう、かつて過ごした世界での記憶だ。
そこでは恐竜に酷似した生き物が闊歩していた。そいつらは単一の国家みたいなものを形成していたんだけれど、『生まれによる格差』がひどすぎて、俺はもちろん最底辺弱者という立場だったのだ。
ちなみに格差っていうのはようするに『デカい種族に生まれたヤツが強い』みたいな、思想とか信条とかそれ以前の問題で、なんていうかどうしようもなかった。
その世界での絶望的な気持ちがよみがえるので恐竜っぽい生き物はダメなんだ。
さっさとスライム飼育スペースに行こう……俺は足早にウマトカゲスペースを通り過ぎようとした。
しかし……
「あれ」
サラがウマトカゲに興味を示した!
俺は腕の中のサラに言う……サラ、パパは……大きめの爬虫類がダメなんだ。なんていうか、いじめ殺されそうな気がする。あいつら豪快そうに見えて意外と陰険だからさ。性格悪いんだよ。ほら、見てみろ、あの血も涙もない感じの目……
しかしサラはウマトカゲに夢中で、俺が離れようとするとゴネる。
俺は対話を試みた……しかし三歳と化したサラは力強く暴れ、俺の腕から抜けようとする。うわっ、なにこれ、三歳児強い……暴れる。叫ぶ。今にも俺の腕を脱してウマトカゲへと躍りかかろうとする。
まずい、サラがめっちゃ叫ぶので注目が集まり始めた……
しかし俺は落ち着いている。人生経験の豊富さは伊達ではない。
持ち前の冷静さでサラが暴れ、叫び、周囲がこちらを見ている状況を客観視した。その狂騒の中央にいるのは子供がゴネるのにあたふたする三十路間近の新米パパだった。あたふたしてやんの。ウケるー。
客観視したところでなにも解決しない。
わかったわかった……俺は大人の余裕を発揮することにする。
サラ、わかったよ。お前がウマトカゲに乗りたい気持ちはわかった。もっとこう、ウサギとか小動物系に興味を示してくれるとやりやすかったんだが、まあ、時代はもう『女の子だから』とかそういうこと言うような感じでもないしな。
そこまでしてお前がウマトカゲと触れあいたいなら、要求を飲もう。
ただし人生は等価交換だ。お前がウマトカゲに乗りたいというわがままを通そうと思うなら、俺のわがままも通させてもらおう。いいな?
ちなみに俺の言葉を、サラは叫ぶことでスルーした。
三歳児ッ……!
言葉が通じない……!
しょうがない。俺は切り札を使うことにする。
サラッ! お姫様のポーズだ!
すると暴れていたサラは一瞬でお姫様のポーズに移行した。
なぜかこの指示には反射的に従うのである。そしてポーズをとらせると一瞬だが叫びやむのであった。
そしてお姫様のポーズをとるサラに問う……乗りたいか、ウマトカゲ?
「のる」
そうか。でも、パパはあの生き物嫌いなんだ。
「のるの」
うん、わかった。じゃあ、『お願い』をしてみよう。「のるの」じゃなくて「のってもいい?」って、まずは聞いてみてくれるかな?
「のってもいい?」
しょうがないな。いいよ。
俺は折れた。
サラを地面におろし、手をつないでウマトカゲ騎乗の列に並ぶ。
列が縮まり、ウマトカゲが近づいてくるとやっぱり嫌悪感があるが……
まあ、しょうがない。
俺は、俺の趣味で『好きな動物』と触れあうという俺の望みを叶えに来たが……
俺が一番好きな動物は『人類』……それも娘がその中で一番好きなのだから、しょうがない。
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