28話 なかま
もちろんカリナはイヤだってさ。
「ボクにとって陽光は敵なんだ。ヤツとはわかりあえないのさ」
あと水着とか恥ずかしいし……そう小声で付け加えた。小声で付け加えたほうが本音のような気がした。
しかし感触は思ったより悪くない。
度重なる会話やボディタッチで『カリナはひょっとしたら俺のことが好きなのかもしれない』と思っている俺ではあるが……
油断をしない性格なので、ひょっとしたらカリナが俺にまったくの無関心で、プールに誘っても『は? なんであなたと?』とかいう返事をされて心に消えない傷を刻まれることも覚悟していたのである。
しかしその懸念は払拭された――カリナはやっぱり俺のこと好きなのかもしれない……図書室で隣り合っているこの距離になんだかドキドキしつつ、俺は周囲の迷惑にならないよう小声でカリナを説得する。
基本ラインは『勉強の息抜き』という名目で、チケット代は払わなくていい旨を告げ、二人きりではなく友達と四人になるはずだ、ということも付け加えた。
論理的に考えて『言い訳の提示』『デメリットがないことの提示』『複数人で行くことの提示』……ここまでそろえればかなり心のハードルは低くなると思う。
だが『人混みが苦手』『水着を人前でさらすのがイヤ』などは本人の心の問題なので、これらを乗り越えるためのなんらかの動機付けが必要だ。
そしてカリナをたきつけるような言葉は俺の口から出てこなかった。
俺は追い詰められる――カリナに羞恥心をどうにか飛び越えてもらうために言える言葉がないのである。
思えば俺はカリナと前世の因縁で結ばれているらしいのだが、今生のカリナのことをそこまでよく知らない。
なにが好きで、なにが嫌いで、朝食はジャムなのかバターなのか、ベーコンなのか、ソーセージなのか、目玉焼きは半熟なのか固焼きなのか、そういうのをなんにも知らないのである。
交渉のための手札がないので、俺はぶっちゃけることにした。
実は幼なじみのマーティンにカリナのことを自慢してしまった。プールに連れて行くと言ってしまった。非常に個人的な事情で本当に申し訳ないんだけれど、どうか俺のプライドを守ってはくれないだろうか――
ぶっちゃけるのは最後の手段というか、ほぼ捨て身特攻だった。
へたするとここまでの関係性が無に帰らないとも限らない情報提供である。
俺は言い終えたあとで後悔した。カリナと築き上げてきた関係性と、マーティンとのくだらないプライド争い。この二つを天秤にかけた時、俺のプライドよりカリナとの関係のほうが重いことに気づいたのだ。
俺はすぐに陳謝した。そしてプールは忘れてくれと申し出た。
しかしカリナは言う。
「まあ勉強のことでなんらかのお礼をしたいと思っていたところだ。よかろう。君の召喚に応じ、ボクの力を貸してあげよう……」
これはまったく意外な反応で、俺はおどろき、呆然とし、しばらくそうしたあとでようやく我に返って感謝した。
カリナがなかまになった!
コンゴトモヨロシク……
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