踊る双剣

ラムダックス

第1話

 

「ローゼ、そっちだ!」


「うん、任せてデュオン」


「グルゥアアアアア!」


 四つの赤い目をもつ大きな熊が、立ち上がり腕を広げ、大きな声で威嚇をする。身体中に走る真っ赤な紋様を光らせ、その長く鋭い爪を一般人には目にも留まらぬ速さで振り抜いた。

目の前には、2人の子供がいる、普通ならば、誰もがもう終わりだと絶望する状況だ。


 しかし、この二人は違う。何故ならば、




「はあああっ!」


「てやあああっ!」


「ゴッ、グフゥ……!!」




『踊る双剣』なのだから----






 ☆






「ふう、お仕事終わり……」


「ナイスタイミング、ローゼ」


「デュオン、そっちこそ」


 二人は笑いあい、互いの腕をガチリと交差させた。


 組み合わせた腕とは反対の、デュオンと呼ばれた少年の左手、そしてローゼと呼ばれた少女の右手、それぞれには一本の長剣が握られている。


 二人はその大変息のあった剣技によって、冒険者から『踊る双剣』と呼ばれている将来有望なタッグである。




 ーーーーこの世界に数多くする、体内の魔力が暴走した結果生まれる"魔物"。

 身体能力が著しく向上することにより、一度暴れだすと止まることがない。故に、人里に現れると大きな被害をもたらすことがある。


 そんな魔物を討伐し、報酬として金銭を得る。それが『冒険者』と呼ばれる存在だ。


 危険を顧みず、金と名誉とそのため諸々の為に命をかけて魔物に挑む。そんな姿から、いつしかそう名付けられた。



 そして、人が集まると、組織ができる。

 最初は寄合所程度だった集まりも、今や複数の国を巻き込んだ巨大組織と成長し、『ギルド』と名付けられた。



 デュオンとローゼも、勿論そのギルドに所属する冒険者である。

 二人は幼い時からとある目的を共有し、子供ながらもこうして立派と冒険者を続けている。


 ギルドはクエストと呼ばれる魔物退治の依頼を冒険者に効率的かつ円滑に振り分ける為、『ランク』と呼ばれる制度を導入している。

 二人のランクは共にまだ6から1まで昇るうちのランク5ではあるが、近いうちにランク4に昇格するのではといわれている。


 ランク5は駆け出し冒険者を抜け、本当の冒険者として認められる最低ランク。

 ランク4はそこから一歩二歩進んだ中堅冒険者とみなされるランクだ。

 普通の冒険者であるならば、そこまで上がるのに5年〜8年はかかるものである。のに対して、この二人は僅か2年もしないうちにその域まで昇ろうとしている。

 ランク5に上がるのですら、10%程の"冒険者志望"者が(様々な理由によって)脱落するのに。


 ただ子供がなんだか頑張っているな、程度の評価ではない。周りの者も皆、立派な冒険者の一員として評価をし接しているのだ。




 そんな二人が街のギルドへ戻る。と、建物に入ると途端、いつもの通りに冒険者たちから声がかけられる。


「よう、今日も早いな! 流石は『踊る双剣』だっ、なはは」


「そ、そうかな?」


「やめてよ、恥ずかしい」


「そう言うなって、行って帰って2日でレッドライナーを倒してきてしまうなんて、戦った時間は何分なんだってくらいよ」


「まあね。10分かかったかしら?」


 ローゼは両腕を組み、得意げな顔をする。


「ど、どうだったかな?」


 その黒に近い茶髪に手をやるデュオンは普段は少し内気な少年だ。剣を納めていると、そこらの子供となんら変わりはしない。特に筋骨隆々というわけでもなく、かといって軟弱なわけでもない。

 だが全身をきちんと観察すれば、己の身体を最大限活かせる肉体に整えられている。剣に振り回されることもなく、かといってがむしゃらに振り回すこともなし。

 幼いことから"とある目的"のために鍛錬を積み得た、最適な攻撃を繰り出せる技術も相まって、10歳ながらもここまでのし上がってきているのだ。


「デュオン、さっさと報告しましょう」


「うん」


 それは、この少女も同じである。

 12歳とデュオンより歳上な彼女は、体つきも段々と大人びてきている。身長は最近成長期真っ只中なデュオンに追いつかれそうではあるが、女性らしい部分は寧ろ周りの女子よりも成長が速い。


 その金髪と美貌は12歳にしてすれ違う大の大人を釘付けにするが、少しつり目なところが、普段の口調や態度と合わせてツンツンに感じられる。

 が、根は他人を思いやる心を持った優しい少女だ。最近付いてきた二の腕や太ももの筋肉を気にするなど、可愛らしい面も持ち合わせている。

 だが、その心はほぼ全てデュオンに向けられているため、他人からは無愛想にも感じられるのだが。


 その剣技はデュオンに勝るとも劣らない、互いに高め合う関係であるからこそ、ここまでやってきているのだ。ただ血が繋がっているからというわけではない。二人のコンビネーションは切磋琢磨した結果なのである。


 デュオンと共有する"目的"を達成するため、今日も金髪を揺らしながらカツカツとギルドの床を鳴らし歩く。


「すみません、クエスト成功の報告をしたいのですが」


「畏まりました、では依頼書を拝見致します」


 ローゼは携帯用ポーチから一枚の紙を取り出し、受付嬢に渡す。


 これは様々な事情で困っている人たちからギルドに寄せられた依頼が書かれた紙だ。だがただの紙ではない。魔法により保護されており、細工をしたり、また破壊することも余程のことでなければ出来ない仕様となっている。


「……はい、確かに、印を確認いたしました。お疲れ様でした、二人とも。いつもありがとうね?」


 そして"印"と呼ばれる、魔法の力が込められた魔道具と呼ばれる物をつかい、刻まれるクエスト達成の証を紙に記した。

 なおその印が不正なものではないかも、魔道具を使うことにより、ギルドで確認することができるため、この世界においては『クエストの依頼→冒険者への提示→受領→達成』というプロセスを確立することができている。


 最後の項目である"達成"を確認したのは、このギルドの看板娘と言われている受付嬢ラフィエだ。

 ラフィエは長い金髪と長い耳、緑の目が特徴であるエルフ族であり、人間の世界に憧れて街に出てきた人間で言えば二十歳程の女性である。

 その美貌から人気も高く、勿論成長途上の男の子であるデュオンも、向けられる眩い笑顔で顔を赤くするのであった。


「ちょっと、なにデレデレしてるのよ?」


 しかしローゼは目ざとくその様子を咎め、頬をつねる。


「そ、そんなことないよっ」


「なんだよローゼ、そんなことくらいで嫉妬かぁ?」


「若いわねえ」


 あはははっ! 二人の微笑ましいやりとりに、ギルドは笑いに包まれた。


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