秋キャン△ 1

「いいか、お前ら! 我々ビクトリーズは、最下位に終わった。しかも、5位横浜に19ゲームも離されての最下位だ。正直俺はもっと戦えると思っていた。新球団故のやりにくさや力不足はあったかもしれんが、来年からはそんなものは言い訳にならんぞ。全員がもう1度自分がプロであることを自覚して、1人1人が根性を見せなきゃならん!



この2週間は厳しいものになるだろうが、なんとか食いしばってついてきてくれ。秋らしく実りのあるキャンプにしよう!」



「「はい!!」」



みんなでずらっと並んだ、栃木の左隣に位置する群馬県のとある田舎のグラウンドに、滝原ヘッドコーチの激が飛ぶ。


その声は近隣を囲む森林や急斜面な崖に跳ね返り、驚いた鳥たちが曇った空へと羽ばたいていく。



前半7日。1日休みを挟んで後半7日。



計15日間の秋キャンプだが、ベテランの阿久津さん、鶴石さん、奥田さん辺りは参加を免除。


まあ、宇都宮に残ってそれぞれトレーニングはしているのだろうけど、ちょっぴりうらやましい。そのくらい1年通してチームを支えてきたと認められていることの表れだが。



さらには、外国人のシェパードとロンパオは既に帰国し、故障などが原因で帯同していなかったり、合流が遅れていたりする。







レギュラーシーズンが終わるこの時期は、世界各地でウインターリーグが行われている。


もちろん日本国内でも教育リーグという名前で12球団の若手選手が来年の飛躍を目指し、シーズンオフの期間も野球に没頭するのだ。


海外では、台湾、オーストラリア、北中米辺りは近年は特に、日本人選手がよく派遣されているのを耳にする。





ウインターリーグは、比較的温暖な地域で若手選手の育成を主にした野球リーグ。


うちからは、高卒ルーキー内野手の浜出君と第4外野手ポジションだったの杉井君が台湾へ。


若手先発投手である、千林君と小野里君がオーストラリアへ派遣され、それ以外の体が元気な40人ほどの選手が群馬の秋キャンに集まっていた。



無論、俺もその1人。今シーズンの成績からして、俺もベテラン選手達と同じように参加免除になるんじゃないかと期待していたが、現実はそんなに甘くなかった。



それだったら、国内でも海外でもいいから試合が出来る環境に行きたかったですわ。その土地の美味しいものを食べられそうですし。



「よしっ、いくぞ!!」


阿久津さんがいないので、秋キャンの期間だけ臨時のキャプテンに指名された高田さんの掛け声で、約40人の選手達は集団になって、大きなため息を吐きながら走り出した。










「イッチニ、サンシ!」



「「ゴーロク、シチハチ!」」



何故か体操係に任命された俺は、そっちがそう来るならばと、バレリーナ調の動きでボケにいった瞬間に、知らんコーチにケツを蹴飛ばされた。


俺に体操係をやらせるなんてそういうことですよと、涙目になりながら今度は真面目なウォームアップに取り組む。



秋キャンは、前後半7日間ずつに分かれているが、前半は実践形式重視のメニューが組まれている。



とはいえ。



野手は、ウォームアップ終了後、すぐにティーバッティングで500球の打ち込みというのはなかなかにきつい。


それをやりながらも、ローテーションでさらにフリーバッティングも行うのだ。


体操、ストレッチ、サーキットダッシュで体を温めると、柴ちゃんと横に並んで、ひたすらのティーバッティング開始しようとバックネット前に移動。



するとその前に、スーツ姿の男性2人、女性1人の3人組が1塁側ベンチからグラウンドに現れて、ウォームアップを終えた俺に、すすすと近寄ってきた。



彼らは、俺とスポンサー契約を結んでくれるかもしれない、アンダーというスポーツ用品メーカーの人達だ。



「どうも。先日お電話させて頂いた関根です」



少し細身で背の高い、白髪混じりの男性。



その人がピシッと俺にお辞儀をしながら挨拶。後の2人もそれに続く。

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