ロンパオよ、俺は君を信じていたぞ。

店の奥のカウンター席には、見慣れた猫背に丸い顔。体重が100キロに届きそうなくらいのもっちゃりとした体型。


ロンパオがカウンター席で美味しそうにキムチとメンマの盛り合わせみたいなものを頬張ろうとしていた。


その彼が入店した俺達に気付く。


「オー、アライサ………グバアァァッ!!」


ロンパオが喋るよりも先に、宮森ちゃんがロンパオに抱きついた。


「ロンパオさん!怪しいお店じゃなくて、この料理屋さんに来ていたんですね!私、信じていましたよ!!」


宮森ちゃんは涙を流しながら、ロンパオの大きい背中に頬擦りする。ちょっと羨ましい。


「ミ、ミヤモリサン……」


ロンパオは、急に宮森ちゃんにしがみつかれてしどろもどろ。どうしていいか分からない。


彼が俺に助けを求めるような目をした時、それを見た若い女性店員が持っていたグラスを落とした。


なんだか日本人とは雰囲気が違う。台湾の女の子だろうか。そんな気がした。


その女の子がロンパオと宮森ちゃんのくっつく様子を見て………。




「ロンパオ………」



憎しみのオーラが彼女の体を包んでいき……。



バチーン!!



ロンパオのぷにぷにのほっぺたを見事なまでの平手打ち。


「ウワーン!!」


そしてそのまま店を飛び出して行ってしまった。






女の子が店を飛び出して行った後、店内に残ったのは妙な静けさ。


他にいた数組のお客さんもキョトンとして、ロンパオも宮森ちゃんも凍り付いたように動かない。


俺はこの現状と、ロンパオと今飛び出して行った若い女性店員の関係を察すると、俺も店を飛び出し女性店員を追いかけた。





「シクシク……シクシク……」



お店の裏手に、女性店員が屈んで泣いていた。



「ニーハオ」



俺は彼女に優しく話し掛ける。



とりあえずロンパオとあのバカ森は何の関係もなく、あのハグも別に深い意味など皆無で、ただ単に軽いノリでじゃれるようにしがみついただけ。


そもそも、あのバカ森の平たいお胸を見ましたか? ひどいもんですよ。その辺の小学生の方がよっぽど発育がよろしい。


それに比べてあなたは、台湾美人というのですかね。可愛らしい顔立ちで手足もスラッとしていて、うちの宮森とは大違い。


さらに言うと、普段からロンパオは君の話ばっかり。可愛いだの、こんな話しただの、今度スタジアムに招待するだの。ほんと嫌になっちゃいますわ。


「………ホント?」


「おお、大マジよ!だから元気出して!!」


本当にロンパオは君のことが好きなんですわねえ。



などと、普段はイタリア人であるシェパードとの会話用に使用している通訳アプリを使って、ロンパオを持ち上げつつ、彼女を慰める俺であった。



4割打者になると、グラウンドの外でも大変ですよ。








「イラッシャイマセー!!ナンメイサマデスカ?」


結果、台湾人の若い女性店員はだいぶ元気なった。


宮森ちゃんのせいで何か嫉妬して勘違いしたようだが、今では明るく溌剌とした接客で店内を盛り上げている。結構日本語もお上手だ


ロンパオも誤解が解けてとりあえずほっとした様子で、俺に下手な礼を言って、少し前に帰っていった。


「アライサン、ミヤモリサン、オマタセシマシタ!」


女性店員が俺達の注文したメニューを運んできた。


「タオシャオタンメンと、小籠包、焼豚チャーハンデース!!」



「おお、美味そう!」


「食欲をそそるいい匂いですね!!しかも、結構盛りもいいですよ!」



「そうだね。早速頂こう。はい、お箸」



「ありがとうございます」



目の前に置かれた大きな器には、醤油スープにゴマの香りが溶け込んだいい匂い。


俺達は箸をにぎり、まずはアツアツの刀削麺をズルズルとすする。


一瞬にして、俺と宮森ちゃんの笑顔が弾ける。


「美味い!」


「もちもちしてて美味しいですね!」



刀削麺なんて初めて食べたが、なかなか美味いぞ。麺によって若干の厚い薄いがあるから1つ1つの食感が違って面白い。


スープも深みがあって、ゴマのまろやかさと辛味が絶妙にマッチしている。


俺達は一心不乱にその刀削麺をすすり続けた。





「そういえば新井さん」


中のスープじゅわっと溢れる小籠包を口いっぱいに頬張る宮森ちゃんが話す。


「なあに?」


「まだ確定ではないですが、もしかしたらまたCMがあるかもしれないですよ」



「CM? マイプロの?」


「そうです。私も小耳に挟んだだけですけどね。そういう話が制作会社から、うちの球団にきてるとかきてないとか」


以前俺はスマホ向けプロ野球アプリ、マイプロのお試しプレイ動画を撮影したわけだが。


その影響か分からないが、その以降アプリダウンロード数がぐんぐん増えていったらしく、あっという間に野球アプリで総ダウンロード数が1位になったと、そんなネットニュースは拝見していた。


「あと、この前撮影したのはネット向けの広告でしたけど、あれが15秒。30秒バージョンに編集されてテレビCMとしても放映されるそうですよ。もちろんその分の出演料も発生するそうです。よかったですねえ」


宮森ちゃんはそう言って、また小籠包を大口を開けてパクリと頬張る。



だからなに? ここの食事代は奢れという意味だろうか。



「新井さん、ごちでーす!!」


刀削麺に小籠包。焼豚チャーハンに杏仁豆腐パフェ。


全部きれい食べ切った宮森ちゃんのそれはもうこの上なく満足そうな笑顔。



ごちでーす!じゃねえよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る