パンを食す新井さん
「新井くん! これ、どうしたの!?」
シャワーから上がってドライヤーもそこそこに、髪の毛をまだ少し湿らせたみのりんがダイニングテーブルに用意された俺の手作り朝食を見てびっくりしている。
俺がブラとおパンティを用意した時よりも数段驚いている。
「さっき、窓から可愛い可愛い妖精さんが現れて朝ごはんを用意してくれたんだよ」
「これ、全部新井くんが作ったの!?」
普通にスルーされた。ちょっとショックです。
「そうです。僕が作りました」
「すごい! 新井くん、料理出来たんだね」
「まあ、7年ちょっとくらい1人暮らしをしていたのでこれくらいは……」
「それでもすごいよ。ちょっとしか時間なかったのに。ちゃんと洗い物も出来てるし」
「まあ、新井だからね」
「あ?」
「え?」
ちょっとシャレ込んだだけなのにそんな反応をされてしまったが、使ったフライパンや菜箸なとはちゃんときれいにお片付けしました。
そういうのも大切だからね
みのりんは小さく拍手をするようにしなかまら、ニッコリと微笑んでそんな俺を褒めている。
しかし逆に、私の作るご飯が美味しくないから自分で作ったの? と、怒られる可能性もあったので、そうならなくてよかったと俺は何故かこのタイミングで一安心した。
「さあ、食パンもこんがりいい感じに焼けてきてるから。ほら、山吹さん。座って、座って」
喜び驚いているとはいえ、やはり俺に食事を用意させてしまったことを申し訳ないと思っているのか、何かやる事を探そうとしているみのりん。
君は仕事終わりだし、ゆっくりしなさいよと言っても、でも……あの……みたいに眼鏡を掛け直しながらうろうろする。
ええ加減せえ! はよ座らんとその部屋着ひんむいたろか! と脅したら……それはそれでと言い出したので、とにかく冷めないうちに食べましょうと、強引にテーブルに着かせた次第だ。
そしてちょうどその時、オーブントースターがチリンとなりまして、開けるとこんがりいい具合の焼き目がついたトーストが出来上がった。
それを1枚、ひとかけらにしたバターとブルーベリージャムを添え、みのりんの目の前に置いた真っ白なお皿に乗せ、俺もテーブルに着いた。
「それじゃあ……」
俺もテーブルに着き合図をすると、みのりんも両手を合わせる。
「「いただきます!」」
俺達は同時に、まずはトーストにかぶりつく。すずめベーカリーの実力はどんなもんかなとそんな風に豪快にガブッと。
サクッ!!
歯切れのいい心地よい音が俺達の間を交差した。
「美味い!!」
「美味しいね!!」
食パンを1口食べた俺達に思わず笑みがこぼれる。
「すごいね。サクッとしてるのに、中もちもちで」
「そうそう。ほんのり甘味があって、小麦の香りも立ってるよね」
正直、食パンは食パンだろうと侮っていたが、1斤400円もするだけあって、スーパーでよく見かけるやつとはちょっとレベルが違う。
俺がタイマーなど適当にちょっと表面に焼き目が付く程度に焼いただけなのに、外はサクッ。中はもちっ。バターの風味と小麦の味わいがほんのり甘くなりながら調和する優しい味。
俺とみのりんはすぐこの食パンを気に入り、バターを塗ったり、ジャムをつけたりして楽しみながらあっという間に1枚を完食。美味しいから、もう1枚ずつオーブントースターにぶちこんだ。
「新井くん。このベーコンエッグも美味しいよ」
みのりんはトーストと同じくらい、俺が作った他の料理も美味しそうに食べ進めていく。
「そんな、フライパンで焼いただけだよ」
「ほら、黄身の部分をこう半熟にするのはなかなか難しいよ。上手、上手」
みのりんは俺の焼いた目玉焼きをちゅるんと頬張りながら俺をここぞとばかりに褒める。
打率が4割越えようが4割1分になろうが、普段褒められることなんてなかなかないからなあ。
なんだかむず痒い気分だ。
「新井くん、ごちそうさま。約束通りに、夜は私特製のハンバーグにするからお腹すかせておいてね」
「イエーイ! やったぜ!!」
スズメベーカリーの美味しいパンでの朝食を終えた。
朝食を用意してくれたお礼にと、晩御飯は何がいいかと聞かれたので、ノンタイムでハンバーグをリクエスト。
その後はみのりんと肩を寄せあいながらキャッキャッウフフと洗い物を済ませた。
それじゃあここからはどうするかなあと、若干顎をしゃくれさせながら考えていたら……。
ちょっと休みたいから新井くんどっか行っててという空気を感じ取ったので、俺はいそいそと自分の部屋に戻った。
俺が同じ部屋に居たりしたら、無防備にすやすや眠るなんて自殺行為だからね。
その気持ちは分かる。
今日は月曜日で移動日なので試合はないが、今週は東京スカイスターズ、北海道フライヤーズとのストロングビジター6連戦が控えている。
明日の昼に家を出たら、次帰ってくるのは日曜日の夜だ。
今のうちに出来ることはやっておこう。
まずは溜まっていた洗濯物を洗濯機にぶちこみ、布団を干し、掃除機をかけて、トイレ掃除に風呂掃除。
脱水された洗濯物をベランダに干して出来上がり。
外はいい天気だ。ちょっと駅前でビクトリーズ女子を探して……。見て!新井選手よ!キャーキャー!みたいに言われてこようと考え、俺は意気揚々と外出していった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます