こういうところも新井さん

「すごい。お花がいっぱいあるね」



「本当だ。これは景気がいいなあ」


パン屋さんの建物の入り口の両脇には、新規開店らしく、色とりどりの花輪が並んでいる。


それを見ると俺はパチンコ屋の新装開店を思い出してしまう。そんな輩である。


隣で見上げるみのりんにはそれが新鮮だったようで、いつくも並んでいる花輪を眺めている。


端から順に……


小林問屋。材料などの仕入れ先かな?


田崎建築。お店の施工主でしょうね。


雀宮町内会。野球好きの町内会長からも届いているね。



そして最後を飾るのは………




北関東ビクトリーズスーパーイケメンルーキー 新井時人。



「新井くん! 大変!新井くんのお花があるよ!!」



俺の名前を見つけたみのりんが目を見開きながら興奮して、思わず繋いでいた手を離してしまった。



さりげなくお尻を触っても全然気付かないほどに。



「そうだよ、だって俺が出したんだから」


「そうなの? いつの間に……」


「1週間くらい前にネットで出来るで。……見て、俺のやつは他の花輪よりもちょっとだけデカイでしょ?これ結構お値段するんですよ」


「そうなんだ。新井君はまだ低年俸なのに……」


「こういうのは近隣の住民に宣伝効果もあるし、目立ってなんぼだからね。……さあ、お店に入ろう」







「たのもー!!」


俺は1流の野球選手のオーラを身に纏いながら、スズメベーカリーの店内へ。


「いらっしゃいませー!」


「おはようございます。いらっしゃいませ!あ、新井さん!」


店内に入ると、トレイとトングを持った数人のお客さん。


そして、カウンターの向こう側には、店主の奥さんが俺に気付いてペコリとお辞儀をした。


その横では、大学生くらいの小柄な女の子が覚束ない所作でレジを打ちながら接客している。


「やー!いよいよ開店しましたね」


俺は馴れ馴れしく、人妻に声を掛ける。


「新井さん。来て下さったんですね! 開店祝いの花輪まで送って頂いて……」


「いえいえ。御安い御用ですよ!


店主の奥さんはお召しになっているスズメの可愛らしいキャラクターが入った頭巾を振り落とすくらいの勢いで俺に頭を下げる。


年齢は俺の3つくらい上。31か32かそのくらいの年齢の奥様だ。スラッとした体型で明るい雰囲気の女性だ。


「ところでご主人は? 奥で仕事中?」


「はい。今は午後の分の仕込みを……呼んできますね!」


そう言って後ろの厨房に駆け出そうとした人の女を呼び止める。



「忙しいならいいですよ。また別の日にでも来ますし……。まあ、パンの味が期待を裏切らなかったらの話ですけどね!」



5万円もした豪華な花輪を出しながら、こちらから奥さんの方を煽っていくスタイル。






からの、のし袋。10万円入り。




それを奥さんに手渡した。


「はい。開店祝いパート2。お店が落ち着いたら、みんなで何か美味しいものを食べて下さいね」


「新井さん、よろしいのですか!?」


奥さんは感激してしまったようだ。今にも泣きそうな顔をしている。


その横でみのりんが選んだパンを袋に詰めるバイトの女の子は不思議そうな表情。


「君も、お寿司で中華でもステーキでも、好きなものをリクエストするんだよ」


俺がその女の子にそう伝えると、今度は少し反応に困ったような顔をした。


「は、はい………ありがとう……ございます」


この俺のイケメンぶりに戸惑って苦笑いするその感じ、ポニテちゃんに出会ったばかりの頃を思い出すぜ。








「ただいまー」


「ただいま」


パン屋から帰った俺は、有無を言わさずみのりんの部屋にしっかりと上がり込む。


「ご飯の前にシャワー浴びていい?」


俺が誕生日プレゼントであげたバッグを大切そうに空いた棚の上に置きながら、みのりんは俺の顔を見てそう言った。


9月の初旬だが、今日は朝から少し暑いくらい。仕事が終わったばかりだし、女の子として気になったりもするのだろう。


俺はもちろんそれを快く了承して、彼女にバスタオルと下着一色を手渡した。


「どうして新井くんが私の下着の入ってる場所を知っているの?」



「え?」





という事件が勃発しながらも、まあまあまあ気にしない、気にしないと言って俺はみのりんを浴室へと押し込んだ。


しばらくすると、浴室からシャワーを使う音が聞こえて、擦り扉の向こう側で裸のみのりんがシャンプーしている姿が見えた。



残念ながらポニテちゃん程のボディではないみたいだが、これはこれで全然あり。


スマホで撮影したい衝動にかられながらも、下手をすれば犯罪に当たるのでギリギリのところでそれは止めておいた。


その代わりに。肉眼でドアの向こうのみのりんを十分に堪能した後、俺はキッチンへと向かった。







冷蔵庫を開けると中には、卵にベーコンにツナ缶。紙パックに入ったコーンスープ。


野菜室には使いかけのレタスとパプリカもあった。


俺は蓋付きのフライパンをIHコンロで温めながら、水気を切ったレタスをちぎり、パプリカも細めの短冊状に切っていく。


それを少し深いお皿に盛り付けて、真ん中にはしっかりオイルを切ってマヨネーズとだし醤油で和えたツナをドバッと。


周りにイタリアンドレッシングをふりかけてサラダは完成。


フライパンが温まったので、ベーコンを6切れ並べて軽く両面に火を通す。


少し脂が滲み出てきたら、それをフライパン全体に広げて、割った卵を2つ落とし、蓋をする。


あとは弱火で2分ほど。



その間にマグカップを2つ用意して、コーンスープを注ぎレンジにイン。


さらにその隙に、さっきのスズメベーカリーで購入した食パンを厚めにスライスしてオーブンの中へ。


するとフライパンのベーコンエッグがいい感じに焼けたので、お皿に盛り付けて軽く塩こしょうを振り、付け合わせのプチトマトを添えて彩りもバッチリ。


温まったコーンスープにサラダの器を真ん中に置いて、オーブンの食パンもいい感じに焼けてきた。


冷蔵庫からバターとブルーベリージャムも用意するとシャワーを浴び終わったみのりんが、頭にバスタオルを乗せながらダイニングに戻ってきた。

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