真面目なんだか不真面目なんだか
「なによ?」
ギャル美は不思議そうな顔をして俺の方を見る。
俺もギャル美の格好を見つめる。
腕は全部さらけだして、おへそも出てるし、胸元のボタンも全開で、角度によってはピンクのブラがちらちら。
下も太ももどころか、お尻の丸みがよく分かるくらいの小さなショートパンツ。
許しません。そんな格好で人前に出るなんて、お兄ちゃんは許しませんよ!
「ちょっと、マイちゃん。そんな格好でお店に入るなんて、ちょっとガードが緩すぎやしないかな」
「は? 別にいいじゃん。暑いし」
「まあ、そうだけど。こんな夜中だし。あんましそんな格好はして欲しくないかな」
「そんなのあたしの勝手………」
と、言ってる彼女の胸元に手を伸ばす。
そして、ボタンを1つ、2つ、3つと全部止めてやった。
よく見たら、後部座席に薄手の上着があるじゃないか。
それに手を伸ばして、ギャル美の肩にかける。
「2人きりで部屋にいる時とかはいいけどさ、外ではもう少し肌の露出とか考たら?
こんな格好してたら、この女誘ってんのか? って思われても仕方ないからね。俺は嫌だよ。自分の彼女がそんな風に見られたら」
俺がそう言うと、ギャル美は少しはっとした表情をして、バツが悪そうに狭い車内で俺から目線を逸らしながら………。
「………ごめんね」
小さな声で謝ってきた。
「いいよ、別に。俺の方こそおせっかい言ってごめんよ」
「でも、そんなんじゃないから!」
「え?」
「だから、他の男を誘ってるとか、そんなんじゃないから!」
ギャル美は強い口調でそう言い放ち、車を降りた。
ちょっとからかったつもりだったのになあ。マジの方で捉えちゃったんだね。自分の彼女が………のワードがギャル美の心にだいぶ響いたようだ。
どう? この、乙女心をこちらからほじくっていくスタイルは。
「ねえ、レンタルビデオショップ行ってもいい?」
スーパーでの買い物を終え、車に乗り込んだところでギャル美がエンジンをかけながら俺に訊ねた。
「ああ、いいよ」
俺が返事をすると、ギャル美はスーパーの駐車場からブイーンと走らせ、スーパーのお隣のレンタルビデオショップへ。
先週のみのりんと、全く同じコースを歩んでいるじゃないか。なに?狙ってるのか?
「ほら。早く、早く」
ギャル美に急かされながら車を降りて店内へ。
出入り口側の階段テコテコ歩いてレンタルDVD・Blu-rayコーナーへ。
そしてギャル美は洋画コーナーへと進んでいく。
「ちょっと前から気になっていた映画があったのよね」
そう言ってギャル美は、棚の前にしゃがみ込んで並ぶ映画のタイトルに目を凝らしている。
先週もみのりんが一生懸命映画が探していたっけなあ。
そんな2人の姿が重なって見える。
それで以前何かで見た、彼女が選んだ映画がで分かる深層心理によると、みのりんが選んだのは、沈没する豪華客船から脱出しようとするいわゆる、スリラー、パニックもの。
そういう映画を選ぶ女の子は、より深い関係やドキドキするような刺激を求めているらしい。
あくまで心理テストみたいなものなので、信憑性は怪しいものだが、もしそうだったらと考えたら、無駄にドキドキしてしまう。
きっとギャル美もどっちかというと、刺激を求めるタイプだろうなと、真面目な顔をして映画を選ぶ彼女の太ももをなんだかんだと車の中では申しましたけれども、結局のところはこれでもかと凝視していた。
「あった、あった、これだわ!」
お目当ての映画を見つけたようで、ギャル美がよいしょっと立ち上がる。
そしてその映画のパッケージを俺に見せ付ける。
アウターステラー。数年前に公開された宇宙探索をテーマとした映画だ。
「レンタルしてきちゃうから、帰ったら一緒に見ましょう」
ギャル美はそう言って1階に続く階段の方へと向かっていく。
俺はその隙に、スマホにブクマしていた、その映画占い的なやつのページを開く。
……えっと、なになに。
宇宙とは未知のもの。あなたもわたしも知らないことばかり。
こんな映画を選ぶ彼女は、あなたのことをもっと知りたい。わたしのことをもっと知ってほしい。そんな風に思っているかもしれません。
なるほど。ギャル美はもっと俺と親密な関係になりたいわけね。
「借りてきたわよー。帰りましょー。……どうしたの? にやにやしちゃって」
「いや、なんでもないよ。これからもっとお互いのことを知っていこうね」
「はあ!? なに言ってんの? 気持ち悪いわねえ」
「へー、こういうお話だったのね」
「なー、すごいスケールのデカイ話だったよ」
「ねー」
ギャル美の住むマンションで、スーパーで買ってきた割引されたお総菜やらお寿司などをパクつきながらビールやチューハイを空けて、借りてきた宇宙ものの映画を、薄暗くした部屋の中で、2人きりでじっくりと観賞した。
ほどよくお腹も満たされ、日付も変わり、午前1時を回った頃。
帰りの飛行機も新幹線も一目はばからず爆睡してきたとはいえ、だいぶまた眠たくなってきた。
それはギャル美も一緒のようだ。
俺はスマホを開いて時間を確認しながら、大きくあくびをする。
「………そろそろ帰ろうかなー」
これは俺の牽制球みたいなものである。
その牽制球にギャル美はすぐさま反応する。
「は!? 帰るの? 今から?」
ギャル美は、食べたお総菜のゴミを片付ける手を止めて目を丸くしている。
「だって夜も遅いし。朝になったらみのりんを迎えにいかないと……」
俺は続けざまに牽制球を放る。
「そうだけど……。泊まっていってもいいのよ?……あたしは……」
今度はギャル美がふんわりとした牽制球を放ってきた。
俺をアウトにするつもりはないが、セーフにして逃がすつもりもないどっちつかずの牽制球だ。
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