お出かけするおふたりさん。
彼女が泣こうが、喚こうが。1人で秘密の営みを始めようとも。
例えシャワーを浴びようとしたとしても、隙あらば中に突入するくらいの気持ちで、俺はこの部屋に居座ろうと軽く決心した。
しかし、1日オフとはいえ、このままぼーっとしているのも、もったいない。せっかく雨も止んできたことだし。
本当にみのりんが今日は一緒にゆっくり出来るねと、そういうつもりで言ったのかは分からない。
だからわりと小心者の俺は、とりあえずの探りを入れるべく、次のように訊ねてみた。
「そうだ、山吹さん。よかったら、何か映画かアニメでも借りてきて一緒に見よっか。マイちゃんが住むマンションの近くにレンタルのお店あるでしょ? あそこでさ」
するとみのりんは、ぱあっと煌めいた笑顔をこちらに向けた。
「うん。そうしよっか。………あと、そのレンタル屋さん行った後、晩ごはんの買い出しもしていい?近くのスーパーに」
「もちろん。荷物持ちは任して。遠慮なくお買い物したまえ」
「ありがとう。そうだ。新井くんは晩ごはん、何食べたい?」
「そうだなあ。………ハンバーグを食べたいかな?出来れば中にチーズがとろーり入ったやつ。あと、なんかフルーツとか」
「分かった。それじゃあ、支度してくるね。……新井くんも着替えてきて」
「オッケー!」
よし。夜までコース確定!!
イエス!
「お待たせ、新井くん」
部屋の外に出て、換気扇から漂うみのりんのシャワーの匂いをくんくんしながら待つことしばらく。
少しメイクをして、おめかししたみのりんがご登場。
白のTシャツをちらつかせながら、長い黒色の深いVネックの夏らしいスリーブレスワンピース。
白黒を合わせたシンプルで涼しげな清楚系コーデがよく似合っていて、腰で緩めに傾かせた茶色の細いベルトがいいアクセント。
さらに、同じ黒色のかわいらしいベレー帽を被って、首からはシンプルなアクセサリー。
俺が1ヶ月前にプレゼントしたバッグを肩から下げ、ガン見していたからか、少しだけ恥ずかしそうにニッコリと笑いながら、玄関の鍵を閉めた。
「じゃ、いこっか」
「うん」
2人並んで俺達は歩き出す。
外の階段を降りて、運動公園をぐるりと周り、旧国道に出て、後は道なりにまっすぐ10分くらい。
マイちゃんの住むマンションが見えてきた。
俺とみのりんが住む部屋とはちょっと格が違う立派なマンション。
俺達はなんとなく、最上階にあるマイちゃんのベランダを見上げる。
「マイちゃん、今頃お仕事頑張ってるかな?」
みのりんがそう呟く。
「頑張ってるんじゃない? ああ見えて、相当仕事熱心だよね。……そうだ。帰りに、ポストに差し入れ置いていこっか」
「いいね、新井くん。そうしよっか」
「いらっしゃいませー!」
ギャル美の住むマンションから歩いてすぐ。
幹線道路沿いに建っているレンタルビデオ&ゲームショップ。
そのお店の自動ドアが開くと、外の少しじめじめした空気とは全く違う涼しい冷気が、歩いて訪れた俺達2人を涼ませる。
お店の正面には、CDとゲームソフト売り場。
俺達は入り口左から伸びる階段を上がっていく。
平日のちょうどお昼時。
客はまばらで、2階のレンタル棚をあっちこっち、返却されたディスクが入った大きなカゴを抱えた店員さんが行き来する姿が目立つ。
「山吹さん、普段映画とか見るの?」
「うーん。……テレビでやってたらたまに録画がするくらいであんまり」
「なるへそ」
とりあえず俺達は、新作コーナー、名作コーナー、人気シリーズコーナー。アニメコーナー、お笑いコーナー、ドラマコーナーと、話をしながら一通り回る。
途中、アダルトコーナーに入ろうとした俺の耳が眼鏡さんのとてつもない力で、ちぎれんばかりに引っ張られたのは言うまでもない。
アニメコーナーの後くらいだったら入れるんじゃないかと思ったんですけどね。タイミングは悪くなかった。
しかし、なかなかそうは上手くいきませんね。
近くの棚に重ねられた小さなカゴを手にした俺は、気になっていたシリーズ映画の新作と、お笑いトーク番組の新巻を入れたのだが、みのりんまだ棚に並んだパッケージとにらめっこをしていた。
「うーん……」
たまに棚から手にしては、パッケージの裏を見たりしてたりはするのだが、みのりんはそのまま棚に戻してしまう。
まあ、別に急いでいないし、うろうろする彼女の横に着いて気長に待つつもりではあるが。
そういえば、雑誌だったかネットニュースだったか忘れたけど、彼氏と2人きりで見る映画の内容で彼女の深層心理が分かる!
とかいう内容の記事というか、心理テストというか。
そんなものを目にしたことを俺は思い出した。
恋愛ものを選んだ彼女はこう思ってるとか。アクション映画だと、彼氏にこうして欲しいと思ってるとか。
そんな感じのものだ。
みのりんと付き合っているわけではないが、シチュ的にそれに近い状態ではあるので、当てはまらないこともないだろうと考え、みのりんが何の映画を見たいのか、わりとドキドキしながら俺は彼女を見ていた。
「ねえ、新井くん。ちょっと前に見た映画なんだけど……」
「うん。なに?」
「ほんのちょっとだけ見ただけなんだけどね。沈没してしまう船から脱出しようとする内容で………」
「タイタニック?」
「うーん。そんなに有名じゃない気が……。それだったら、聞くまでもなく分かるよ」
「それもそーね」
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