名指しで応援される新井さん

5回終了時のインターバルがいいリフレッシュになったのか、連城君の球に力強さが戻り、バッタバッタと三振が奪えるわけではないものの、スカイスターズのバッターの芯を外し、次々に打ち取っていく。


「打ちました! これはレフトに上がりましたが、新井の正面。ほぼ定位置で掴みまして、3アウトチェンジ!! さあ、連城が6回を三者凡退! ビクトリーズ3点リード、6回裏は6番桃白から攻撃が始まります!」



キャッチしたボールをエキサイティングシートのお子様にぽいっと投げ渡し、颯爽とベンチに戻る。


連城君が尻上がりに調子を上げてきた感じだ。首位のスカイスターズ相手に中盤まてで3点リードを奪い、チームの雰囲気も明るい。


今日はいけるかもしれないぞ。








「夏休みわくわくデー。チビッ子応援コーナーでーす。スタンドに応援にきているみんなから、選手に応援メッセージを聞いていきたいと思いまーす!まず1人目は、こちらのマイクを渡しますので、好きな選手に応援のメッセージを宜しくお願いしまーす!!」



気付いたらスタンドでなんかやってるなあ。


チビッ子応援コーナー。バックスクリーンの映像には、席から立ち上がり、緊張した様子の男の子がマイクを握り締めている。


「ゆうだいです! ぼくは、あらい選手が好きです!! 新井選手はたくさんヒットを打つのでかっこいいと思います! 今日も、たくさんヒットをうってください!」


男の子はそう言って、マイクを横の女性に返した。


「ありがとうございました! ゆうだい君には、新井選手の特製応援グッズをプレゼントいたしまーす! 続いては外野スタンドの南さーんお願いしまーす!」






「はーい、こちら南でーす! 私は今ポール際の外野席にやってきていまーす!! それでは、こちらの男の子にも応援メッセージをいただきたいと思いまーす!!」



別の男の子が写った。真っピンクのビクトリーズキャップをかぶっている。緊張した面持ちで、お姉さんから渡されたマイクを両手で握るようにして話し始めた。



「真岡市からきました、小学4年のまさゆきです!ぼくは、ビクトリーズの新井選手のファンです! 新井選手は、とても流し打ちが上手いので、ぼくもお手本にしています。ぼくも部活の野球を頑張って、新井選手のような選手になりたいです! 新井選手、頑張って下さい!!」



「はーい。ありがとうございましたー! こちらのまさゆき君にも、新井選手の応援グッズをプレゼントいたしまーす!新井選手聞いていただけましたかー!」


これ以上ない笑顔でイベンターの女性がそう言うと、バックスクリーンにはベンチに座ってタオルでイケメンフェイスを拭う俺が写っていた。


俺はとりあえずの投げキッスをして、両手で応援メッセージをくれた2人の男の子に笑顔で手を振った。






こういうのやるなら、事前に言って欲しいわよね。俺が裏でアイスを食べていたらどうするつもりだったのかしら。







「さあ8回表、スカイスターズは同点。はたまた1発が出れば逆転というチャンス。打席には1番に返りまして平柳が入ります。今日は1安打。マウンド上はリ・ロンパオです。左対左の勝負になります」


7回に1点を返されて2点差とされたところで、連城くんは交代。


その後、うちは細かい継投で9回まで繋ごうとするも、8回にヒット2本とフォアボールで1アウト満塁。


1発もある怖い左の平柳君を迎えるところで、うちはセットアッパーのロンパオを投入。


この勝負は力と力のぶつかり合いとなった。


初球、2球目は変化球も、そこからはストレート勝負。


初球の際どく外れたドロップボールを見逃して、次の同じ球を1塁線に痛烈なファウル。


それで、丸顔のもちゃおとこに火がついたのか、頑なに速いボールを全力投球で、平柳君のインコースにぶち投げている。


そんなボールが続いた5球目。平柳がインコース高めを引っ張る。角度がつき、一瞬ドキリとしたが、打球に伸びはなくややラインよりの平凡なライトフライ。


少し深めに守っていたライトの桃ちゃんだったが、俊足飛ばして難なく追い付く。


いいぞ、ロンパオ。力勝負で平柳君を打ち取った意味は大きい。


犠牲フライで1点差になるが、これで2アウトだ。まだ1点リードしているからな。ここ抑えれば9回はキッシーがピシャリと締めてくれるさ。



なんて考えていた俺の目に映ったのは、フライを掴み、助走をつけて繰り出した、ライト桃ちゃんのスーパーレーザー。


俺にしてみれば考えられないくらいのめちゃ速くてめちゃ低い送球が、グラウンドを切り裂いた。


あっという間にホームに到達。


低く構えるキャッチャー鶴石さんのミットにストライク返球。


そこにタッチアップしたランナーが滑り込む。



「アウト!!」







今日1の大歓声が、バカ肩をぐるんぐるん回しながら、にこやかにベンチに戻る桃ちゃんを包み込んだ。



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