不調に陥った新井さん4
などという、打撃コーチは俺にいわゆるハッパをかけるような言い方をしたのだが、今日は試合自体が劣勢。
序盤に相手のフォアボールやエラーで、2点を頂戴するも、中盤以降からはうちの投手陣が失点を重ねた。
うちがいなけりゃ最下位。そんな言い方をされるくらい今年の横浜ベイエトワールズは、開幕からチームの調子が悪い。
埼玉ブルーライトレオンズ、東北レッドイーグルスの中位チームには優勢な戦いを見せるも、東京、北海道の上位2チームから大量の借金を抱える。
最下位のうち相手に、今シーズンここまで8勝7敗で勝ち越しがたった1個では、5位が指定席となり、なかなか上の順位に手が届かない。
投手、野手ともにケガ人に次ぐケガ人でなかなか軸となる選手を固定出来ずに日替りオーダーでその日をなんとか凌ぐような戦い。
しかし、今日ばかりは、うち相手にホームで連敗は出来ぬと。
自らの序盤のミスによる失点で目が覚めたのか、そこからは横浜スタジアムの夜空へお得意の一発攻勢。
去年までの、破壊力抜群の流星群打線が久々にお目覚め。
4番筒薫の2打席連続弾を皮切りに、3番5番にも特大の1発。1番桑ノ原、9番本倉にも1発が飛び出すなど、6本のホームランで10得点で一気に試合を決められてしまったのだ。
「柴崎打ちました! いい当たりだ!………センター前へ抜けていきます! 9回表、2アウトから1番柴崎がヒット。………ビクトリーズはこれでようやくチーム3本目のヒットです」
柴ちゃんのほどよく力の抜けた、柔らかいバットコントロールで膝元の変化球をセンター前へ弾き返した。
俺に打順が回ってきた。
一応、一瞬だけチラリとベンチの方を確認してみるが、代打の気配はなし。
俺はそのまま打席に向かう。
「2番、レフト、新井」
今日5回目のアットバット。
ここまで3打数ノーヒット、1送りバント。
やはりインコース中心に攻められて、窮屈なバッティングをさせられて、ここまで自分らしい右方向への打撃が全く出来ていない。
最悪ヒットが出ないにしても、自分らしい打席にしなければ………。
俺はなんとかチームメイトやベンチにそんな気持ちを見せることは出来るようにと、バッターボックスに入る。
「バッターボックスには新井です。7点差。非常に苦しい試合ですが、まずは1本ヒットを放ちたいところです。…………ピッチャー投げました。外側ストレート決まって1ストライク。………アウトコースの甘いボールに見えましたが、新井は見逃しました」
「いつもの彼ならね、積極的に打ちにいくコースだと思うんですけどねえ。バットが出てこないんでしょうねえ」
あっと思った時にはもう遅く、アウトコースの真ん中の高さのボールをあっさりと見逃してしまった。
俺にとってはかなりのチャンスボールだったのに。
またインコースから入るのだろうと、そっちのコースをなんとかしようと気を取られてしまっていた。
これはまずい。
2球目。低めの厳しいコースの変化球。インコースじゃないと感知した瞬間、もう本能的にバットが出てしまっていた。
スイングは腰砕けのヘロヘロスイング。
打球は1塁側スタンド前の防球ネットに当たるファウルボール。ファウルになってくれてラッキー。ヘロヘロ過ぎたスイングで内野フライにならなくて助かったという形だった。
あっという間に2ストライクと追い込まれ………。
3球目は今度こそインコースのストレート。冷静に選球出来ればボール球と見切れたのだが……。見逃す余裕はなかった。なんとかしなければと苦し紛れのスイング。
バキィ。
バットを簡単に折られるくらい詰まらされて、打球はサード前正面のゴロ。
1塁へ全力疾走したが、俺の足では余裕でアウト。
俺がアウトなりゲームセットとなると、スタンドを青く染めたファンが皆立ち上がって、勝利の瞬間に酔いしれる。
俺はそれを全身で感じ、やりきれない悔しさと一緒にチームメイト達が引き上げていくベンチへと戻っていった。
「新井さーん。プロ選手持ってます?」
「いや、プロはいないけど。社会人選手のプロになれそうな選手なら持ってるよ。なんか、露摩野(ろまの)って選手なんだけど、ミートDパワーDだから、4番で使ってる」
「へー。アマチュアにしては強いっすねー。1回試合しません?」
「いいよー」
夜0時すぎ。遠征先のホテル。
今日は試合に負けてしまったので、こっそりコンビニまでステルスミッションを行った後は、100円のいかさきを食べながら、同部屋の柴ちゃんとスマホゲームのマイプロで遊んでいた。
コンビニに売っていたマイプロチップスも3袋ほど購入して、おまけの選手カードに書いてあるシリアルコードを入力して、選手ガチャを回す。
出てきたのは3回ともアマチュア選手で、がっかりしながら選手のトレーニング練度を確認して、柴ちゃんとフレンド対戦。
ともにベースチームは北関東ビクトリーズ。
チームの総合力も同じくらいで、白熱した試合展開
になった。
試合の分岐点は8回裏。俺のチームの攻撃。同点で2アウト満塁。バッターは4番、露摩野。柴ちゃんの中継ぎエースの決め球である縦スラを狙い打ちさせると、打球はセンターオーバー。
「くっそー! やっぱ真っ直ぐ勝負すればよかったー」
走者一層のタイムリーツーベースとなり、柴ちゃんはベッドに倒れ込むようにして悔しがった。
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