新井さんは何打者ですか?

「守備に就きます、北関東ビクトリーズ、レフト、新井。…………センター、柴崎。………ライト、桃白」



いよいよ試合開始で、俺はグラブの中いっぱいにボールとマスコット人形を詰め込んで、レフトの守備位置へ。


いつものように、あんまり俺のことを野次んないでねとお願いしながら、敵さんチーム。



今日は、埼玉ブルーライトレオンズのファンがたくさんいるスタンドに、ボールとマスコット人形を次々と投げ込む。




「新井さーん、こっちに下さーい!」



「こっちも、こっちもー!!」




ファンの反応はこのように上々である。




「北関東ビクトリーズ、本日の先発ピッチャーは………小野里。背番号24」




今日のうちの先発は1軍と2軍の行き来が得意な若手の小野里。今シーズン2勝目をかけてのマウンドだ。



彼の投球練習を横目に、センターの柴ちゃんとキャッチボールをして肩慣らし。


ちょっと覗いた試合前のブルペンと投球練習を見る限りでは、今日の小野里君はなかなかいいボールを放っているように見える。前の登板では高めに浮いたボールを打たれている印象だったからね。


そんなこともあってか、まだ投球練習の段階だが、球は全体的に低めにちゃんとコントロールされていて、変化球もいい感じ。


今日は俺の復帰初戦なんだ。



しっかりたのんますよ。





「1回表、埼玉ブルーライトレオンズの攻撃は………1番、センター、春山」



レオンズファンの歓声に迎えられるようにして、相手チームの1番打者が左バッターボックスにはいる。


今シーズンここまで打率.311、ホームラン10本。20盗塁という成績で、オールスターにも選出された選手。


ザ・核弾頭。日本代表にも名を連ねる、東日本リーグを代表する外野手の1人。




ブルーライトレオンズは、この1番打者を塁に出してしまうと一気に活気づいて、打線がどんどん繋がっていってしまう。


マウンド上の小野里としては、絶対に打ち取りたいところだ。



だが、レフトから見るに、なんとなく打たれそう。


そんな予感がしてならない。


どう打たれるだろうか。


思い切り引っ張って、ライト線に飛ぶだろうか。



上手く流し打ちされつレフト前ヒットになるだろうか。



いきなり、2ベース、3ベースになるのはやばいな。


野球ゲームのミラクルプロ野球の査定通り、小野里君ははすぐピヨピヨしちゃうからね。




とりあえず、逆方向にも長打をかましてくるバッターだし、2ベースをシングルヒットに押さえることが出来れば、レフトとしては万々歳だろうと思い、俺は柴ちゃんのポジショニングを確認しながら、定位置よりも少し下がることにした。






「小野里第1球を投げました! 打った、初球打ち!! レフトへライナー、いい当たりだ!……………打球は伸びていきますが………レフト新井がフェンス際、下がって掴みました。1アウトです」



アブねー。こえー。



ポジションを定位置より後ろに変えたまさにその場所に弾丸ランナーが飛んできた。



フェンスに背が着きそうなくらいのかなり飛距離の出たレフトライナー。



そういう打球を想定して深く守っていたのに、いざその通りの打球が飛んでくると、かえってビビるね。


カチカチに固まった状態のまま、なんとか打球をグラブに収めた格好だ。


振り返って俺に、ナイスポジショニングと拍手するショートの赤ちゃんにボールを返しながら、1アウト、1アウトと声を掛け合いながらも、冷や汗が止まらない。



マジで一瞬正面なのに捕れないかと思った。足が動かなかった。いきなりそういう打球は止めて欲しいわよね。




「2番、源は3球目打ちました! 三遊間、ショートゴロ。難しいバウンドになりましたが、上手く捌いて1塁アウト。………三遊間深いところでしたが、ショート赤月が強肩を生かして刺しました。2アウトです」







「最後は、アウトコースいっぱい見逃し三振! バットが出ません!北関東先発の小野里、フルカウントから最後は外角低めへ素晴らしいストレート。1回表、3者凡退、見事な立ち上がりです」







「さあ、立ち上がりに難があると整い言われていました小野里が、今日はようやく上々の立ち上がりを見せまして、1回裏ビクトリーズの攻撃というところです。


スタメンを確認しますと、1番柴崎、2番新井という並びに戻してきました、ビクトリーズの萩山監督ですね。大谷さん」



「ええ。前半戦最後は新井を1番で使って連敗止めましたんでねえ。今日もあるかと思いましたが、従来の打順ですねえ」




「前半戦終盤の柴崎はちょっとヒットが出なかったんですが、後半戦は3試合で5本のヒットを放ちまして、また少し打率を戻してきました」




「まあしかし、1つの打線というものを考えた時に、2番というのは非常に重要なんでね。柴崎を1番に戻したというよりは、2番に新井を置きたいということでしょうねえ」



「そうですね。最近は、メジャーでもそうですが、2番にホームランを打てる強打者を置くことは日本でも度々見られるようになりましたが………」




「新井はね、強打者というタイプではないですけど、打率ありますし、バントも出来る、進塁打も打てる。 柴崎が1塁にいれば、盗塁を助けることもしますし、右方向のバッティングがより生きますからねえ。日本野球の理想に近い2番打者の形でしょうねえ」

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