3人娘とのバーベキューを企む新井さん5
実際にアイスも売られている受付のコテージに入る。
冷房が効いていて涼しい。
そこにいたキャンプ場のお姉さん。
彼女もこちら側の人間だ。
「どーも。それじゃ、よろしくお願いします!!」
「任せて! 私、こういうのやって見たかったんです!」
従業員の女性は、やる気満々といった様子で俺に向かってぐっと親指を立てて、入れ替わるように、コテージから出ていった。
みのりんサプライズの流れはこうだ。
俺、デザート買いにコテージへ。
俺、倒れる。
従業員さん、みのりんを呼びにいく。
みのりんがダッシュでコテージへ。
しかし、コテージには誰もいない。
みのりんがあれ?あれ?と困惑する。
すると、プレゼントを持った俺がバースデーソングを歌いながら背後から登場。
という流れである。
俺はみのりんに渡すプレゼントのそこそこのお値段のバッグを抱えて、受付カウンターの中にしゃがんで隠れる。
1分ほどすると…………。
ザッザッザッ!
コテージの外で何人かの走る足音が聞こえて、勢いよく木製のドアが開かれる。
「……はっ、はっ!」
みのりんだ。お酒にほろ酔いでありながら、暑い外をダッシュしてきて、血相を変えた色白な肌が赤く染まっている。
彼女は慌てた様子のまま、少しキョロキョロして、俺の靴下だけが見える奥のソファーを覗き込む。
そこには、ハズレ。ニセモノの新井くんでした! と張り紙してある。
その瞬間、俺は立ち上がり……。
「ハッピバースデートゥーユー!」
「あ、新井くん!?」
ハッピーバースデトゥーユー!!………ハッピーバースデー、ディア…………愛しのみーのりーん!……ハッピーバースデ………」
「新井さん、新井さん」
「何よ、さやかちゃん。最後まで歌わせて!」
「みのりさんがびっくりし過ぎて、気絶してます」
「ええー…………」
みのりん目を覚ませ!
柔らかいほっぺをぷにぷにとしても全然目を覚まさないので、こうなったら白雪姫のお話のごとく、とりあえず服を脱がしたろと思ったら、危機を察知したのか、みのりんがピコーンと目を開けた。
「あ、新井くん………?」
みのりんはおもむろに、俺の名前を呼んだ。
「山吹さん、ごめんね。おどかせたりして。大丈夫?」
「う、うん………ちょっとびっくりしただけ…………これはどういうこと?」
「実は君にサプライズでプレゼントするつもりでして…………はい、これ。差し上げます」
体を起こしたみのりんに、昨日モールのショップで購入したバッグをプレゼントした。
若い女性に人気の海外ブランドから発売されたばかりの、茶色のバケットタイプの大きめのバッグだ。
それを受け取ったみのりんの表情が一気に明るくなる。
「ありがとう、新井くん。これ、ずっと欲しかったの。嬉しい! 本当にありがとう!」
よっしゃ! 喜んでもらえたぞ。
「あたしからのプレゼントよ」
「私もご用意しました!新井さんのバッグほど高級ではありませんが」
「マイちゃん、さやちゃん。ありがとう。大事にするね。………ほろっ………」
3人からプレゼントをもらったみのりんが、ポロンと涙をこぼした。
すぐにその涙を、みのりんは自分で拭き取る。
「ごめんね。こんなに嬉しい誕生日は初めてで……ちょっと泣いちゃった」
それに対して俺は………。
「泣いちゃっていいんだぜ。これからもっと素敵な思い出を一緒に作っていこうぜ」
「キモ!!」
こらぁ、ギャル美め!
翌々日。今日も照りつけるような大陽。プールにでも行きたくなるような暑さ。
バーベキューの時に、鍋川さんからもらった女子プロ野球の公式戦チケット。
他の女の子3人達は、みんな仕事やらなんやらで都合がつかず、俺は1人でテクテク歩いて栃木県営球場へとやってきた。
宇都宮とちおとめガールズ対埼玉アストライナ。女子プロ野球の試合だ。
相手の埼玉のチームは何回も優勝経験のある強豪チームらしく、とちおとめガールズは、上位チームとあまり差はないみたいだが現在最下位。
夏休み前最後の土曜日だが、天気は快晴、気温32度。照り付ける太陽が、球場の熱気と緊張感をさらに熱くしていく。
スタンドに入り見渡してみると、多少まばらとはいえ、結構お客さんは入っているようだ。
近くに、鍋川さんが呼んだのであろう、JK達が1塁ベンチ近くのスタンドでキャッキャッしているのだが、当の鍋川さんはスタメンではないようだ。
両チームのメンバーが発表され、それが分かって、その鍋川後輩JK達も可哀想だ。
それにしても、スタンドには、ちゃんと大太鼓マンやトランペッターをはじめとした応援団が両チームにいる。選手達の応援歌の歌詞がプリントされたうちわも配っていた。
俺も、うちわを渡された。
顔バレはしなかった。
とは言っても、観客は700人か800人ほど。
プロ野球のなかでも、比較的観客動員数が少ないと言われるビクトリーズでも、1試合平均2万2000人は越えてくるのだから、女子プロ野球の現実は厳しいのは間違いない。
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