いっちょ前に野球を語る新井さん
みのりんの作ってくれた特製の冷やし中華と、これでもかという量の蒸し餃子などを腹いっぱいに頂いた。
そして、ギャル美とポニテちゃんにも心配掛けたなと詫びを入れて、俺は早めにお暇することにした。
自分の部屋に戻り、ベッドに寝転がって大の字になり、ゆっくり目を閉じると、今日の試合の最後のシーン。
サヨナラの場面がふと瞼に浮かぶ。
俺の流し打ちで決めてやんぜと意気込んだ間に目に入った、3塁コーチおじさんからのスクイズのサイン。
正直、マジかよと、少し頭が真っ白になった。
はぎやーん!打たせてくれよー!と、俺の打率を見てご覧なさいよと。しかも2ストライクじゃねえかよと。
そんな心境だったのだが、さすがにスクイズのサインは無視出来ない。
とりあえずフェアグラウンドにボールを転がす。コースを狙う余裕はあまりない。ともかくしっかりと転がす意識だけはあった気がした。
そう思ってからは一瞬の出来事のようだった。
みのりんにうだうだうだうだと解説じみた話し方をしたが、それはあくまで結果論。上手くいったからそう話せるだけであり、俺に余裕などなく、必死になってやった1プレーに過ぎない。
しかしそこには、俺の経験に基づいた2つの要素が、サヨナラ2ランスクイズに繋がったのは決して偶然ではない。
1つ目の要素は、ピッチャーにスクイズの打球を取らせたこと。
ピッチャーの川村に、スクイズされる可能性など考える余裕はなく、とにかく点を取らせないように俺を打ち取ることしか考えていなかったはずだ。
力で抑え込むタイプのピッチャーならなおさら。
きっと俺を三振に仕留めたかったはすだ。
しかし、その三振を取りにいったボールをコツンとバントされ、そこから慌てて取りにいくもスクイズを決められる。
内心は呆然と。信じがたい点の取られ方に、1塁送球はだいぶアバウトになったはすだ。
現に送球はふわっとしたゆっくりなもので、長身の1塁手が片足でベースに乗って軽く背伸びをするようにしてキャッチしたくらい。
迷わず3塁を蹴った柴ちゃんに気付いたファーストの足元に、俺がヘッドスライディングをぶちかましたらどうなるだろうかというのが2つ目の要素。
しかも、普通にヘッドスライディングをするわけでなく、相手ファーストの足元を掬うように。ベースの上でピッチャーからの送球をキャッチしたファーストの足元めがけてぶちかましてやるのだ。
もちろん、後でやいやい言われないようにさりげなく。
たまたまの交錯プレーに見えるように。
そして慌ててホームに送球しようとした相手のファーストはバランスを崩し、ショートバウンドのボールをホームに送るのが精一杯。
キャッチャーのミットからボールがこぼれ、ランナーにタッチ出来ず、ツーランスクイズを許し、サヨナラとなったわけだ。
そう言った意味では、相手のファーストが俺の腕をスパイクで踏んづけて流血させてくれたのはラッキーだった。
グラウンドで、腕から血をドボドボ流してる相手に、いや、あいつが邪魔してきて…………。
とはなかなか言えないだろうらね。
一連のプレーの中の出来事として片付けることができる。
ふふふふ。これも野球よ。
1番起用の新井が決死の2ランスクイズでビクトリーズ前半戦最終戦をサヨナラ勝ちで連敗ストップ!!
東京 100 001 111 5
北関東000 400 002× 6
勝 岸田 1勝2敗11S 負 川村 2勝1敗23S
本塁打 東京 平柳8号ソロ(7回裏)
北関東ビクトリーズが連敗を15で止めた。1点を追う4回。ビクトリーズは赤月の2点タイムリーツーベースで逆転に成功すると、さらにシェパード、桃白にもタイムリーが飛び出し、この回4点を挙げた。
同点に追い付かれた9回、1アウトランナー2,3塁のチャンスで、新井が2ランスクイズを決めサヨナラ勝ちを収めた。
東京は小刻みに加点し同点に追い付くも、ストッパーの川村が誤算だった。
試合後談話。
逆転タイムリーを放つなど3安打2打点の赤月。
「打ったのはスライダー。なんとか後ろに繋ぐ気持ちだった。前半戦で連敗を止められたのは大きい。後半戦で巻き返したい」
2安打1本塁打のスカイスターズ平柳。
「ホームランはインコースの変化球を上手く捌けた。なんとか勝ちたかったが、今日は相手が粘り強かった」
勝利したビクトリーズ、萩山監督。
「なんとか連敗を止められてほっとしているのが正直なところ。今日は1人1人が打席で気持ちを見せていた。後半戦でも今日みたいな戦いが出来れば巻き返せるチャンスはあると思う。
え? 新井?
ケガも心配だし、だいぶ疲れもあるようだから、1度2軍に落とす。後半戦頭には間に合わないが、これからも頑張ってもらわないといけない選手だから。軽傷であることを祈ってるよ。いつも監督室のお菓子を盗み食いされるけど、今日くらいは労ってあげたいね」
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