幼なじみがお好き? 巨乳図書委員長がお好き?
1球目。ストレートが低めに外れ、1ボール。
俺はその1球の外れ方を見て………。あ、この打席、今のようなボール球さえ振らなければ、かなり高い確率でなんとかなるなという予感を得た。
これが高めに外れるくらい思いきり投げ込んでこられた方がよっぽどやりにくい。
それが球がおじぎするように低めのボール球になるようなピッチャーには、プロとはいえ怖さはあまり感じない。
初対戦でも全くこちらが不利な状況ではない。怖さを感じないピッチャーほど、やりやすいものはない。
プロ初先発ということですから、まずは大事にストライクが欲しいのは分かる。
打順が一回りする頃にはまた違う印象になるかもしれないが、この打席はいただいた。
2球目もアウトコース。俺の体の遠いところでボールになり、3球目でようやくストライク。
次は変化球が高めに抜けて3ボール1ストライク。
「第5球目、投げました!」
その5球目が問題だった。
事もあろうか、ベルトの高さのアウトコースのストレート。
流し打ちするなら、絶好の球。打って下さいと言わんばかりの絶好球。
廊下の向こうから、天然の眼鏡巨乳図書委員の女の子が、たくさん積み重ねた本を抱えて、おぼつかない足取りでこっちに歩いてくるようなもの。
チャンスしか感じない。
見逃してフォアボールの可能性を高めなくてはいけないのに!
そうは思いながらも。
俺はそれに手を出すしかなかった。
無防備な天然巨乳図書委員なんてもはや絶滅危惧種なのだから。
振りだしたバットの芯でボールを捉えた。
打球は低く強いゴロとなったが、ファーストの正面に。
しかし、ショートバウンドになったその打球をファーストが大きく弾いた。
そのボールをファースト自身が拾いにいく。
これはセーフになるかも! 俺は1塁ベースめがけて猛ダッシュ。
これがアウトになるかセーフになるかまるで違う。
「ファーストが弾いた! 新井が走る!ベースカバーに入るピッチャーとの競争になった!! ファーストからピッチャーへボールをトス! きわどいタイミングだが………………アウトだ! 間一髪アウト!!」
うわー。僅かに間に合わなかった。
タタン!くらい
タタン!くらいの僅かな差でピッチャーに競り負けた。
ちくしょう。マジで悔しい。あとちょっとで内野安打だったのに。
野球ゲームじゃ、走力E査定の俺じゃこんなもんか。
「2番、センター、杉井」
打席を終え、ベンチに戻った俺は、チームメイト達にピッチャーの印象を伝える。
ストレートは球速ほど速くは感じないが、球持ちがよくて、スライダーが曲がりの大きい小さいのと2種類あるかもしれない。
1塁側に踏み込んで投げてくるので、常にクロスファイア気味にボールがくることなど、分かる限りの情報をベンチに伝えたのだ。
これも1番打者の役割だ。
スタメンに抜擢。俊足が売りの右打者、2番杉井は低めのストレートを打ってセカンドゴロ。
3番阿久津さんは甘く入った変化球を打つも、フェンス手前のレフトフライで3アウトチェンジ。
相手の先発ピッチャーに上々の滑り出しを許し、まっすぐを主体にしたピッチングで、このあと3回までパーフェクトに抑えられてしまう。
しかし、こちらの先発碧山君も、ノビのあるストレートに低めの変化球が冴え、東京スカイスターズ打線から凡打の山を築き、負けじと4回を投げて1失点と粘りのピッチング。
もしかしたら点の取り合いになるんじゃないかと予想していたが、両チームともピッチャーが踏ん張る展開で、北関東ビクトリーズの攻撃は俺から始まるところ。
打者1巡して無安打無失点。
打席に入る俺は、相手ピッチャーの攻め方を思い出してみる。
1打席目の初球からまっすぐを多投していた辺り、ずいぶん速い球には自信があるようだ。
ストレートで押してカウントを稼いで、最後は2種類の曲がり幅があるスライダーで仕留める。
そんなピッチングだった。
果たして2巡目に入るところでも、このバッテリーは同じ攻め方をしてくるだろうか。
俺はそう考えながら打席に入り、初球だいぶ外よりにきた緩い球を強引に打ちにいった。
「新井が初球を打ちました! 打球はライト線! フェアかファウルか!………………内側に落ちました、ヒットです!! 新井は1塁を回って、2塁へ…………いや、止まりました。ここは自重して1塁ストップ!
やりました! 1番の新井が得意の流し打ち! ライト前ヒットでノーアウトランナー1塁です!」
本当は2塁を狙いたかったが、1塁ベースを回る瞬間、1塁コーチのおじさんが、止まれ! 殺すぞ!!と叫んでいたのが聞こえた。
全く。俺の足を信用して欲しいわよね。
今のは2塁いけましたわよ。
とはいえ、その1塁コーチのおじさんとグータッチをしながら、バッティンググローブを渡す。
「いいぞ、新井。上手いバッティングだ」
「どもっす」
相手の1塁手と1塁審判に、こんちわっすと挨拶を済ませながら、大きく安堵の息を吐く。
よーし。やはり思っていた通り、ストレート押しの攻め方を変えてきたね。
しかし、スライダーではなくて、まだあんまり投げていないボール球のチェンジアップを選択したのがバッテリーの痛手。
そのコースに様子見のチェンジアップなんて、どーぞ流してヒットにしてくださいと言ってるようなもんですよ。
朝起こしにきた勝ち気な性格の幼なじみが、いい加減起きなさいと勢いよく布団をめくって、朝特有のいきり起ちを見て、勝手に恥ずかしがって顔を赤くしている。
そんなくらいのちょろさだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます