ギャンブル大好き新井さん。

「バッターボックスには、ここのところ打撃好調、今日は1番で起用されておりますルーキーの新井です。1打席目は10球粘った末にフォアボールでしたが………」



「もちろんね。打って出塁するのが1番ですが、先頭打者としてしっかりボールを見極めて、あれだけピッチャーにボールを投げさせて且つフォアボールで出塁となると、チームにとっては本当に助かりますよ」




「そうですね。柴崎に代わって1番起用の新井が、初球を打った! セカンドへのゴロ、2塁ベース際!……追い付いて、あっと、これを弾いた!! 拾い直して1塁には投げられません!! 記録はセカンドのエラー! ビクトリーズ、ノーアウトのランナーが出ました!」




初球の甘くきたまっすぐを打ったが、セカンドの守備範囲。しかし、それを運よくポロンとやってくれました。バウンドが上手く合わせられなかった様子。


記録はもちろんエラーで打率は下がったが、また先頭打者として出塁出来たのは大きいぞ。



1塁に到達し、コーチおじさんのアドバイス。



「いいか、そろそろ警戒して何球か牽制してくるかもしれないから気をつけろよ。引っ掛かんなよ」



「はい」



1塁コーチのおじさんがそうボソボソと呟く。



1回ウラは同じノーアウト1塁で送りバントだったからなあ。



そろそろ面白い作戦をやりたいわよねえ。




さてさて、ベンチからのサインは?












ター





エン








ラン








キター!!




バスターエンドランという一世一代の大勝負。心なしか、サインを決断した萩山監督が1番緊張感しているような顔をしている。



相手にバレてしまうかもしれないし、もっと監督らしく堂々としていて欲しい。



エラー出塁を許してしまってちょっとショックを受けている相手バッテリーと守備陣に、さらなる奇襲を仕掛けようとするこの作戦。



1塁ランナーの俺も、もちろん相手に気取られないような素振りをしなければならない。


間違っても牽制されて一瞬でもピクリと2塁へ走る動きなんかをしてはいけない。


だからと言って消極的なリードの取り方をするのではなく、それもいつも通り。


ピッチャーに楽をさせないように十分なリード。左足がギリギリアンツーカーに残るくらい。


すると、ピシュッとピッチャーから牽制がきた。



俺は無難に頭からベースに滑り込みベースに戻る。



そしてまたリードを取る。


特別相手チームに怪しまれている様子ではなさそうだ。サインの変更もない。



問題は、柴ちゃんがちゃんとバットに当てられるかどうかだ。俺の足ではスチールの形になってはまず成功しないんだから、頼むぞ柴ちゃん。




サインの交換を終えたピッチャーがセットポジションに入る。


柴ちゃんがバントの構えをする。



そして、1秒………2秒と静止したピッチャーが足を上げた。


俺はその瞬間、2塁へスタート切る。


相手内野陣から走ったと声が上がり、バントの構えからバットを引いた柴ちゃんがスイングする。



カンッ!



打球はレフト線ギリギリに上がった。





「新井がスタートを切って、柴崎はバスターだ!!打球はレフト線………フェアー! ラインギリギリに打球が落ちました!スタートを切っていた1塁ランナーの新井は2塁を回る!!


レフトが追い付くがボールを中継に返すだけ! 打った柴崎も2塁へ滑り込む!ツーベース!! バスターエンドランという形になりました! やりました、ビクトリーズにビッグチャンス! ノーアウトランナー2、3塁です!エンドラン成功です!」



2塁ベース上で、柴ちゃんが嬉しそうにベンチに向かってガッツポーズをしている。



確かにそうしたくなるくらいの非常に大きな1本のヒット。


普通にやっていては攻略出来そうにない石浜相手に、奇策が上手くいって2、3塁なのだから。


しかし、油断するわけにはいかない。相手は球界を代表するピッチャー。こういうピンチを迎えてから、さらにギアが上がって投球の精度を増してくるのだから。こんな絶好機だからこそこちらも集中しなくては。



その証拠に、相手内野陣は前進守備。


まだ同点の4回だし、ノーアウト2、3塁でこれから中軸を迎えるところなのだがら、1点あげてもまず1アウトを取ることを優先するのがセオリーなのだが。



首位を走る相手チームは、ピッチャーを信頼した、そう容易く1点をやるかよという、ある意味余裕たっぷりの前進守備だ。




随分と舐めてくれるじゃないか。

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