勝つためにがんばる新井さん2

うーん。やべえなあ。あっさり負けすぎだろう、いくらなんでも。せめて1人2人でいいから塁に出るような粘りを見せていかないとねえ。


やられるにしても、明日に繋がるような試合がしたいところ。無抵抗のまま終了なんてのは1番怒られますし、余計勢いもなくなりますからね。


「おーい、やる気あんのかよ、赤月ー!!」


「4番だろしっかりしろよ! 今日もノーヒットかよ! バカヤロー!!」


「戦力外を拾ってもらって安心してんなら、やめちまえ!!」


凡退してベンチに戻ってくる赤ちゃんに容赦ないヤジが飛ぶ。



そのヤジはベンチにいる俺にも聞こえるんだから、当然赤ちゃんにもしっかりと聞こえている。


「……くっ」


もちろん、言い返したりはしないが、かなり来るものはある。


赤ちゃんは唇を噛み締めながら、ぐっと悔しさをこらえるようにしてベンチに帰ってきた。


チームメイト達がなだめるようにして、彼の大きな背中を叩く。


確かに4番として難しいポジションとはいえ、なかなか復調の兆しが見えない打率2割2分ではねえ、ファンがヤジを飛ばしたくなるものよく分かる。


赤ちゃんのみならず、暗い顔をしているのは他のチームメイトも同じ、どんよりとした雰囲気が漂うベンチ裏に選手達が引き上げていく。


どいつもこいつも暗い顔。特に野手陣はみんなひどい顔だ。


そんな中、俺は4打数2安打と結果は残したので、わりかし気分がいい。1人ニコニコ。


ミーティングが終わったら、さっさと帰って、みのりんに優しく、ギャル美に厳しく、ポニテちゃんにぶるるんと褒めてもらおうとか、そんなことしか考えていない。



いや、そう考えるようにした。




俺まで参ってしまったら終わりのような気がしたから。




そんなわけで翌日。








「終盤7回に入りますが、今日もビクトリーズは東北レッドイーグルス相手に苦戦しております。2回に桃白がタイムリー、鶴石も犠牲フライを打ち上げて2点を先制しましたが、東北自慢の助っ人トリオが今日は好調。



茂手木や島外といった選手が出塁し、打線の中核を担う、ベデーロやウィーガー、ラマダーの3人が勝負強いバッティングを見せました。


7連敗中という状況で、引き続き東北レッドイーグルスとの試合でしたが……ビクトリーズ先発、若手の小野里が5回5失点で既にマウンドを降りています」



その後、両チーム無得点。2ー5のまま7回ウラ、ビクトリーズの攻撃に入るところですが、東北レッドイーグルスは勝ちパターンの1人、福川をマウンドに上げた。



ピッチャーは右。7番鶴石さんに左の代打の川田。


インコースのカットボールに詰まらされてセカンドゴロ。


8番、左の守谷ちゃん。



低めのストレートを打つもショートゴロ。



9番ピッチャーの代打。左の浜出君。打率.180


低めのチェンジアップに空振り三振。



あかん。やばい。今日も負ける。



最近は調子のよくなかった相手セットアッパーに対して、僅か9球でチェンジになり、またすぐ守備に就きにいかなくてはならない。


どうも負けている時はリズムが悪い。同じアウトになるにしても、少しでもピッチャーに球数を投げさせるような打席にしていかないとね。


打線というのは、その積み重ねよ。






「東北レッドイーグルス、ピッチャーの交代をお知らせします。ピッチャー、福川に代わりまして、林原」


8回ウラ、また違うピッチャーが出てきた。


なんとしても3点差をあと2イニングでなんとかしないといけない。9回には1番強い抑えが出てくるのだから、ここでなんとかしないと本当にヤバし。


「新井さん、俺達でチャンス作りましょう」


ネクストの輪っかのところで、代わったピッチャーのタイミングを取りながら、柴ちゃんが俺にそう言ったが、打率2割3分の1番打者が何言ってんのとそう思ってしまった。



柴ちゃんがそんなことを言って出塁した試しがないんだから。



ちゃんとクリーンヒット打って、1塁に到達して、1回タイム取ってから、打席に入ろうとする俺にそう言って欲しいわよね。


「8回ウラ、北関東ビクトリーズの攻撃は、1番、センター、柴崎」


くるくる三振したり、パカーンとポップフライを打ち上げてばっかりなんだから。


足は速いんだから、たまにはセーフティバントとかして欲しいわよね。


「打席には1番の柴崎です。今日はここまで3打数ノーヒットです。………ピッチャー林原、第1球を投げました! ………あっ、セーフティバントだ! 3塁線ギリギリに転がった! ピッチャーが処理! 1塁へ送球…………間に合いません、セーフ!! やりました、柴崎! 見事セーフティバント成功! ノーアウトランナー1塁です!」

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