勝つためにがんばる新井さん

「打ちました! ライトへ上がった! 島外の打球!! ライトスタンドに向かってグングン伸びていく!………入りました!


東北レッドイーグルス、この9回も攻撃の手を緩めません! 島外のダメ押しのダメ押しといっていいでしょう!この2ランホームランは今シーズン第4号。これで10ー2です。さらにリードを広げます!」


高めの失投をカツーンと捉えられた打球がライトスタンドの中段へと飛び込んでいった。既に3安打。猛打賞を決めている東北の3番バッターの容赦ない一撃。



ビクトリーズファンの歓声が悲鳴に変わり、悲鳴がため息に変わり、最後は絶望となる。


相手選手がダイヤモンドを1周する中、ビクトリーズ側としては、あまりにもやられっぱなしの試合展開に心底がっかり。まだ裏の攻撃が残っているが、ぼちぼち帰り支度を始めるファンも多い。


しかし、レフトを守る俺に出来ることはなく、ただ打球に備えて構えたままの膝に手を置いてあくびをするだけ。


眠くもなりますよ。


昨日の自主練習はなんだったんですかね。


ちなみに、8回まででうちが打ったヒットはったの3本。俺が打ったヒット2本と先発ピッチャーが打ち損なった打球がたまたま内野安打になっただけという体たらく。


他の野手はどこに行ったんですか?


打席で息してます?


昨日のたい焼きを返して欲しいですよ。




入団したての頃とかは、試合に出始めた頃なんかは、やっぱりぺーぺーのルーキーで最下位入団ですから、1番下手くそなわけで、周りに迷惑かけないようにとなんとか食らい付いてやっていこうという考えだった。


5年とは言わない。せめて3年。3年はなんとかプロ野球という世界にしがみついて、その経験が後の人生の肴にでもなればと思っていたのだ。


しかし気づけば、このチームはこの先大丈夫なのだろうか。


あまりにも弱すぎて、新規参入のチームが3年もつのだろうかと、そんな心配をするようになってしまった。



「アウトコース打った!打球はレフトへ!!新井が突っ込む!」



なんか思ってたのと違うなあ。


そもそもなんかおかしいんだよな、俺。


今までボールの見え方が違うというか。中学の時は、同じ地区のちょっと速いピッチャーの球になると全然見えなかった。


高校時代は、ベンチから見ている限り、あれ?140キロのボールってこんなもんだっけ? そんな感覚。


8年経ってプロに入って、そのプロのピッチャーの球を目の当たりにした時、あれ? 結構当たるやん!


そんな感覚になったのだ。それは成長なのか、順応なのか、はたまた覚醒なのかはまだ分からない。



「レフト新井が突っ込む! スライディングキャッチー!! 掴んでいます! 3アウトチェンジです!」





「4番、ショート、赤月」


あっという間に9回2アウト。


もう一方的な試合展開でこっからひっくり返すのは正直無理。


ひっくり返せる打線ならば、とっくに連敗は止まってるわって話。


いくら12球団1の貧打線とはいえ、こちらもプロなのだがら、毎試合毎試合ことごとく打てないというのはおかしいのだが。たまには奮起していかないと。


「赤月フルスイング!!………んー、真ん中付近の甘いボールでしたがバックネットへのファウルになります」


今、最後の打者になるだろううちの4番が打席にいるわけだけど、もーとにかく力が入りすぎ。


引っ張って強い打球を打ちたいのはいいんだけど、それ以上に心、気持ちに力が入りすぎているように見える。


チーム全体が打てない中、4番の俺がなんとかしなくては。4番の仕事をしなくてはと、赤ちゃんは感情に力が入りすぎている。


4番とはいえ、所詮は1人のバッターでしかないのだから、まずは自分のバッティングをすることだ。


「さあ、2ナッシング追い込まれました!」



もうバットを握るグリップをそんなぎゅうぎゅうに締め付けて、それでは打てるものも打てないわよ、赤ちゃま。


「打ちましたが………これは打ち上げてしまいました、内野フライ。…………ショートの茂手木が掴みましてゲームセット!。敗れました……ビクトリーズ、これで7連敗です 」

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