守護神を甦らせる新井さん4

1アウト満塁。かつては1度首位打者を獲得したこともある、バッターが打席に入るが、キッシーの投じた初球。


低めのスライダーを見逃して、目を丸くした。


「ストーライ!!」


主審のバッキュンポーズが出て1ストライク。アウトコース低めいっぱいに決まった。


これは手を出しても内野ゴロ。今の状況ではダブルプレーになりかねないくらいのいいボール。


俺はこのストライクの取り方。バッターの見送り方を見て、コントロールミスさえしなければ、8割方打ち取れると思った。


今打席にいるバッターは、昨日キッシーからヒットを放っていた。それも初球を簡単に外野へと弾き返したのだ。


その彼が、まるで初めて見るピッチャーと対戦するようなズレたタイミングで足を着き、バットを出そうとしたのだ。


いくらオーバースローをサイドスローにして、スライダー中心の配球とはいえ、所詮は同じピッチャー。付け焼き刃の投球フォームの変更だ。普通はそう見え方がガラリと変わるものではない。


しかし、バッターの新鮮なリアクションが全て。


今までの見栄を張ったような無理な投球フォームがよほどひどかったのだろう。


それを指摘するのは俺の役割ではないと思うのだが、まあ最下位を独走しているようなチームでは仕方ないか。





「島の打球はボテボテのショートゴロ! 赤月捕って、バックホームだ! きわどいタイミング………アウトだ! 勝ち越し阻止!!ここはうまく低めのフォークを打たせました!これで2アウトです!」


「いいコースにいきました。初球のスライダーでストライクを取れたのが大きいですねえ。島君はスライダーだと思って打ちにいきましたから」



初球のスライダーでストライクを取られたことがバッターの頭に残っていたのだろうが。前のバッターも同じ球を続けて三振を奪われたことも影響したのだろうか。


スライダーだと思ったら、サイドスローの軌道で微妙に落ちた分内野ゴロになった感じか。


まあ、とりあえず2アウトだからなんでもいいけど、結構大バクチなピッチングだなあ。





「さあ、東北レッドイーグルスはここで代打を起用するようです。腰に張りがあるということでスタメンから外れていた島外が出てきました」


満塁のまま2アウトまでなんとかこぎ着けると、今度は相手さんが焦った様子でピンチヒッターを起用してきた。


打率3割越えのレギュラークラスのバッターだ。


左打者。今度はどんなピッチングをするのかな、キッシーは。


どれどれと、キッシーのピッチングを眺めていると、さっきまでのサイドスローではなく、今までのオーバースロー。


真上から振り下ろされた右腕から、ノビのいいストレートが、バッターの膝元にズドン。


「ストーライ!」


いいコースだ。


なんだ、オーバースローで投げられるじゃん。


これなら安心。このストレートが投げられるなら、得意のフォークボールが生きるってもんよ。


しっかり低めにストーンと落とせば、空振り三振てなもんよ。



「真ん中の甘いフォークだ! 打ちました! 打球はレフト線! きわどいところだ!!」



バカァ! バットに当てられてるじゃないか。





目の前に上がった打球に対してダッシュ。レフト線に向かっていく打球が、グラウンドに競り出した、低いフェンスの観客席の方へと向かう。


追い付けそう。だが、打球がファウルグラウンドに落ちるか、観客席に飛び込むか微妙な当たり。


どーせ、取れなくてもファウルだ。ケガだけはしないように、落ち際の打球にグラブを出しながら、足から滑り込む、スライディングキャッチを試みた。


パッシ。


グラブに打球が入った気がした。


しかし、フェンスに激突。


気付いたら、俺は逆さまになっていた。


「アウト! アウト! アウト!!」



俺よりも凄まじいダッシュで打球を追ってきた3塁の塁審が俺の安いグラブの中を確認し、右手を上げてアウト宣告する。


何回も力強く。まるで俺が悪いことをしたみたいにアウト! アウト! と、右手を振り上げ、3塁側スタンドにいるビクトリーズファンから大歓声が上がった。

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