中華を食べたい新井さん2

「柴崎打ちました! いい当たりですが、セカンド正面。柴田が軽快に捌きまして1塁アウト! ゲームセット!!10ー1! 今日の横浜は1発攻勢でビクトリーズを圧倒! 2連勝です!」


柴ちゃんが粘ってフルカウントから低めのまっすぐを叩いたが惜しくもセカンドの好守備にあって凡退。


俺はネクストバッターズサークルでゲームセットを迎えることになった。


スコアは1ー10。


今日は序盤から相手チームのホームランで流れを持っていかれ、せっかく初回に先制したのに鮮やかな逆転負けで3連敗。


5位横浜との6、5ゲーム差をこの3連戦で少しでも縮めたかったのだが、2連敗で逆に8、5ゲーム差に開いてしまい、さらに横浜の背中が遠のいた。


初回の1点も、先頭打者の柴ちゃんのヒットに、パスボールと俺の送りバントでランナー3塁になったところで、阿久津さんの犠牲フライで得た点。


終わってみれば、チームで5安打しか放てずに、相手の投手陣に、ほぼ完全に押さえ込まれた形になってしまった。


俺も今日は3打数1安打1犠打。


1安打も2アウトからショートに飛んだ内野安打。


とくにチームを勢いづけるようなバッティングが出来ずに終わってしまった。


5位横浜に3タテはまずい。なんとか明日取り返せればいいのだが。






「横浜ベイエトワールズ、ピッチャーの交代をお知らせします。ピッチャー、浜口に変わりまして平真。ピッチャーは、平真。背番号36」



まさに一進一退の攻防。うちが点を取れば横浜が追い付き、横浜が追い越せばうちが食らいつく。そんな展開になった。


試合は5回表。柴ちゃんがフォアボールを選び、2アウト満塁となったところで、横浜がピッチャー交代。


左の浜口から右ピッチャーにスイッチ。


右バッターである俺を意識した継投をみせてきた。


「4ー4。この回再び同点に追い付かれたところで、横浜はピッチャー交代です。右バッターの新井を迎えるところで、右の平真を持ってきました。アミレース監督。あとアウト1つで責任回数である5回を投げ終えるところだったんですが……」


「新井はね、浜口からヒットを打っていましたからね。2度追い付かれましたからね、さすがにこれ以上は引っ張れないですねえ」


「マウンドに上がった平真は、13年のドラフト2位で入団し、4年目のシーズンです。ここまで勝ち負けなしの1ホールド。防御率は4.33。6月1日以来のマウンドです」


初めて対戦するピッチャーだけど、テレビで見たり、野球ゲームでは対戦したことがあるぞ。


イメージは出来ている。


投球練習が終わり、気合いを入れて打席に入る。


「バッターは……2番、レフト、新井」





俺は2ストライクと追い込まれ、変化球の誘いをぐっと2球我慢した5球目に、ビュインッと内側いっぱいに速い球がきた。


ベース板とバッターボックスのラインのちょうど真ん中を通るようなきわどい球。


非常にきわどい球であったが、俺は見送る。勇気を持って見送る。


もし主審がストライクと言ったら潔く諦める。まるできっちりフォアボールを選んだ顔をして堂々とベンチに帰る。


そのくらいのつもりで、その1球を見逃した。


ズドンとキャッチャーミットにボールが収まる。


俺は振り向きもしない。






「………………………ボール!」



妙な間があったのでかなり焦ったが主審が悩んだ末のボール判定。


そりゃそうよ。若干力んでシュート回転してるもの。そのまま真っ直ぐくればバットを出してなんとかファウルにするつもりだったんだから。


ボールが見えた瞬間、インコースのストライクゾーンだったが、シュート回転する分、ボールになるだろうとそういう見立てだった。


このシュート回転が直っていれば、先発ローテーションに入れるくらいよ。そんなことを考える余裕がまだあった。


「これでフルカウントになりました」


「んー、今のを見逃されるとバッテリーは厳しいですねえ。しかし、もう1球同じコースへいっていいですね。下手に変化球で打ち取ろうとする方が危険ですよ。このバッターはね」



フルカウント。


4ー4。2アウト満塁。代わったピッチャー。インコースのストレートを見られた。



8割方変化球だな。



もう変化球だけ。


押し出しなんて狙いませんよ。




確実に打ち返す。

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