スタメン勝ち取る新井さん4

「セーフ!! セーフです! タイミングはきわどかったですが、ピッチャーの井之上がベースを踏んでいないという判定でしょうか? 新井の打球はボテボテの当たりでしたが、記録はファーストへの内野安打です」


「執念ですね。ここまで1本のヒットに気持ちを見せられたらチームとして流れを持ってこれますよ」


「これで新井はプロ初ヒットから、なんと8打数連続ヒットとなりました。依然として打率10割キープしています」


「いやあ、あっはっはっ。すごい、神がかっていますね。どこまでこの記録が続くんでしょうかねえ」








痛い。



ベースちゃんが硬い。



最近のベースってめっちゃ硬いんだね。


もう死に物狂いでヘッドスライディングしたから。ピッチャーの足首に噛みつくつもりでベースを抱きしめましたから。


右手首と指と胸とお腹と両膝がすごく痛いんですけど。


あと、タマタマも痛いです。1番痛いです。



「新井? 大丈夫か? 立てるか?」


「なんとか」


1塁コーチャーのおじさんの手を借りて、痛みを堪えながら立ち上がる。


あー、ダメかも。交代かもと、ファウルグラウンドをうろうろとしながらも、あまりの痛さに嫌になりかけた俺に。



「新井ー、頑張れー!!」


「ファイトー、新井くーん!」


「大丈夫かー! ナイスガッツだぞー!」


近くのスタンドのビクトリーズファンからの声が聞こえてきた。




この後全力でプレーが続けられるか分からないくらい、体のあちこちが痛い。しかし、スタンドから聞こえた俺に対する声援が耳に入ると、また1つ気持ちにギアが入った気がする。



ちょっと痛いくらいなんぼのもんじゃいと。試合で出て痛いと感じるくらいプレー出来てるだけで幸せやないかいと。



俺はユニフォームの土を払いながらそう自分に言い聞かせた。


すると、あれだけの痛みがスーッと引いていくような気がした。


それでいて、自分を応援してくれる人がいるからば、もっと頑張らなきゃと。


こんなことくらいで痛がっている場合ではない。もっといいプレーをしなければとそう考えたのだ。


「かなり痛がっていた新井ですが、大丈夫そうですね。今、バッティンググローブを外しまして、1塁ベースへと戻ります。スタンドからは拍手が起こっています」


「ちょっと不自然と言いますか、直接ベースに突っ込むようなヘッドスライディングでしたからね。気持ちは分かりますが、怪我に繋がりますからね。気をつけたほうがいいですね」


「そして、2アウトランナー1塁となりましたて、打席には3番の阿久津が入りました。…………初球打ちました! ………高く上がりましたが……少し詰まったか、打球に伸びはありません。………レフトの筒薫が補球しまして、3アウトチェンジ。井之上、この回も0点に抑えまして、依然スコアは0ー0です」




「6回表北関東ビクトリーズの攻撃は、1番、センター、柴崎」


6回表。3巡目に入り、先頭打者の柴ちゃんが打席に入る。初回はただでもらったようなフォアボール。2打席目は何も出来ずに見逃し三振。



そろそろカツーンとかましてもらいたいね。


「バッターボックスには、トップに返りまして柴崎が入りました。1打席目は、フォアボール。2打席目は三振に倒れています。


…………ここは初球攻撃!!いい当たり! 打球はショートへ! あ! はじいた、はじいた! すぐに拾い直して1塁へ投げますがセーフ!! 記録はショート本倉のエラーです。ビクトリーズ、ノーアウトのランナーが出ます」



さっきの1度も振らずのみの三に反省したのか、初球の甘いコースの変化球を打った柴ちゃん。変化球を上手く引き付けて果敢に思い切りのいいスイング。


打球はショート左への打球となったが、前進してショートバウンドを捕り損ねた相手のエラーで柴ちゃんは出塁した。悪い当たりではなかった。


まだスコアは0ー0。


貴重なノーアウトのランナーである。


「2番、レフト、新井」



そして俺打席。3塁コーチャーからのサインを確認する。


バントなんだろうなー。


どーせバントでしょ。


バントしかありえないよなー。



そう思ってサインを見ていたのだが。
























































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