スタメン勝ち取る新井さん3
柴ちゃんがあっさり、みの三に倒れ、2アウトランナーなしとなって俺に打順が回る。
いつもように、手加減して配球して下さいねとキャッチャーにご挨拶。
あんまり厳しい判定をしないで下さいねと、主審様にご挨拶。
そして、キッ!と、ピッチャーを睨み付けながら、気持ちだけはパワーヒッターのつもりで、バットを構える。
「バッターボックスには新井が入りました。最初の打席は送りバントを決めています。………そして、私も今気付いたんですが、新井は今シーズンここまで7打数7安打なんですねえ。いくつもの試合にかけてではありますが」
「あ、そうですか! 全然気が付かなかったです。大阪ジャガースとの試合で、前村からヒットを打っていたのは知っていたんですが………」
「そうなんですよね。5月の交流戦、ジャガース戦で前村から、プロ初ヒット。これが1塁側のエキサイティングシートに入るエンタイトルツーベースでした。
そして、前カードの埼玉戦でプロ初スタメンで4打数4安打。この試合は阿久津の3打席連続ホームランがあった試合でした。
さらに翌日は代打でバントヒット。さらにその翌日も代打で出場しましてライトにヒットを放っています、このバッターボックスの新井。
ドラフト10位の27歳遅咲きのルーキーです。ご覧のように、打率の表示が1.0。現在の打率が10割ということで、果たしてこの10割がどこまで続くのかというところです」
「さあ!その打率10割の新井ですが、ここは2ボール2ストライクと追い込まれました。第5球目、打ちました!
これは打ち上げてファウルフライ、ファーストのグッドールが追いかけていきますが、スタンドに入りました、ファウルです。少し詰まらされたでしょうか。窮屈なバッティングになりましたがファウルで逃れました」
やばい。打てそうにない。スロースターターなピッチャーだからか、初回2回よりも球が走ってきてる気がする。球速は146キロくらいだが、ストレートがグインと威力が増している印象だ。
そんか速い球でグイグイと押され、ファウルにするのがやっと。
これでは落ちる球やスライダーが来たら三振してしまう。
なんとかしなければ。俺はそう思ってとりあえずバットを指2本分短くして、ポイントを前にして、スライダーやフォークが来たらしっかり見極めて対応しよう。
とりあえず出来合いで考えを無理やりまとめてバットを構える。
「ピッチャー井之上投げました」
ビュン! と来た球はインコースいっぱいのストレート。
みの三はあかんと、バットを振りだしたが、思いっきり差し込まれ、あっさりバットをへし折られた。
打球はファースト側へボトボトゴロ。
これがまたピッチャーとファーストのちょうどどっちも処理出来そうな面白いところに転がった。
「新井の打球は、詰まった!ファーストへのゴロ!! いや、ピッチャーの井之上が捕るか? ファーストに任せる! グッドールが打球を掴んでそのままベースカバーのピッチャー井之上へトス!きわどいタイミングだ! 新井はヘッドスライディング!! ………判定は!?」
打球がインフィールドにバウンドした瞬間、俺は1塁へ全力疾走。
折れたバットのグリップ側を投げ捨てて、猛然と1塁へ走る。
打球はマウンドの横に転がった時、マウンドから駆け下りてきた相手ピッチャーが一瞬打球にグラブを伸ばしかけたが、届かずにファーストに任せる形に。
打った俺としては、当たりはボテボテ。右バッターでそれほど足も速くない俺としては、スムーズに打球を処理されては9割アウトになるところだった。
しかし、ピッチャーのその一瞬打球を捕りにいったことで、1塁ベースまで1歩2歩遠回りになったことが俺にとってはチャンスであった。
ファーストが打球を掴み、ベースカバーのピッチャーとの競争になる。
先にベースを踏んだ方が勝者。
ならば俺は、ピッチャーに1塁ベースを踏ませない。
1塁ベースへのヘッドスライディング。
いや、スーパーヘッドスライディング。
もはやスライディングではない。
1塁ベースに抱きつくのだ。飛び込んでそのままベースを抱き締めるのだ。
ピッチャーには決してベースを踏ません。
例え、腕や指をスパイクされようとも、俺は1塁ベースちゃんを離したりはしない。
その結果、すぐ横にいたピッチャーは躊躇してベースを完全には踏みにいけず、1塁審判の両腕が大きく広がった。
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