守備も頑張る新井さん

「ピッチャー広本投げました! 空振り! しかし、フェルナンド、ものすごいスイング。さすがはメジャーで通算150本のホームランを放ったパワーヒッター。スイングスピードが違います」



今打席には、今年埼玉にやってきた右バッターの元メジャーリーガーが打席に立っているが、このバッターが真芯で捉えた打球が俺の正面にライナーで飛んできたらと思うと、足が震える。


そもそも、レフトの守備なんて、野球を始めたばかりの小学生以来なのに、球団に勝手に外野手登録されたのさえ、俺にとっては、はた迷惑な話だ。


だからもっと守備練習をさせてくれって毎日言っていたのに。


関西弁コーチは、新井くんなんか試合に出るわけないやんけ! はよ、トレーニングしいや! しか言わない。


オープン戦で勝手に俺を打席立たせてオーナーのアメリカおばちゃんを怒らせた2軍監督が減給処分になったもんだから、コーチ陣もびびっちゃって、どんなに頼んでも、誰もこっそり俺にノックなんてしてくれない。


おかげで俺は居残り練習でも、1人で出来る走り込みとか、筋トレや素振りくらいしか出来なかったからね。


おかげで体力やパワーはついてきたけど。



まあ、それもアメリカおばちゃんの作戦通りなのかもしれないが。








で? 何の話だっけ?


「ピッチャー広本、フェルナンドにたいして第4球投げました!!」


カアンッ!!


「フェルナンド引っ張った! レフト線へライナー! 切れるか? ………フェアー!!」


そうそう。試合に使うつもりなら、俺にもっと実戦的な練習をさせてくれって話よ。


「レフト線、フェンス際へあっという間に打球が到達しました! 新井がそれを追い掛ける。フェルナンドはもちろん1塁を蹴って2塁へ向かう!」


弱いチームってのはそういうところがダメだ。1軍でこの選手をこう使いたいから、こう練習させておいてくれみたいな。


そういうやりとりをして選手を育成しなきゃダメなの。


1軍と2軍を別物と考えているからよくないわけ。


俺にじっくり体力作りをさせたいのか、1軍の手薄な外野陣の頭数にしたいのか。


そんなところをはっきりさせないから、俺を1軍に上げて、すぐに落として、また慌ててすぐ上げて、思い付いたようにスタメンで使って。


そんなちぐはぐな起用をしていたんでは、選手の力を十分に引き出すことは出来ませんよ!


「………おっ! レフトの新井からいい返球がセカンドベース上へ!! フェルナンド、なんとヘッドスライディング!! セカンド浜出が返球を掴んでタッチする!きわどいタイミングだ! タッチは……………セーフ! 間一髪セーフ!!」






あー、ほらー。ちゃんと守備練習させてくれたら、今の刺せたって。


つーか、アウトじゃない? アウトのタイミングだったように見えたよ?


しかし、審判の判定はセーフ。その審判にショートの赤ちゃんがそれはないよと詰め寄っていた。


「いやー、大谷さん。きわどいタイミングでしたね」


「ええ。……確かに当たりがよくて打球が強く跳ね返ってきましたが、レフトの新井君がいい返球をしましたねえ。打球の追い方、取ってからの速さ、スローイング。彼なりに完璧なプレーだったんじゃないですかねえ」


「そうですね。もちろん、ライトの桃白が見せるようなレーザービームでありませんが。今、スロー映像が出ていますが、低いワンバウンドのストライク返球。構えたセカンド浜出のグラブにドンピシャリです。


足はそれほど速くないバッターランナーのフェルナンドですが、あまりにもいいボールが返ってきましたので、元メジャーリーガーが最後は懸命のヘッドスライディングでした。しかし、判定はセーフ。ノーアウトランナー2塁です」

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